dream■mid_Dofla_modern parody

□WD遊戯指南書
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「フッフッフッ…

それで?」


「…え?

それでって…」


「まだ話の途中じゃねぇか、もっと話せよ。」


「……。」



バイト先のカラオケ店(建前)のカウンターで、私は一週間ぶりに顔を合わせたドフラミンゴさんに近況報告をしていた。


いや、正確に云うとさせられていたというのか。

いち大学生女子が過ごした一週間など平凡たるもの、もうこれ以上一滴も出ませんというくらいの絞り出しをくらった。


自分のことなのに心底もう厭き厭きしてきた私は、一息つくと斜め後方に視線を送った。



「…ドフラミンゴさんって根気強いんだね。」


「ン?」


いつものようにピンクのフェザーソファにどっかりと行儀悪く反り返っているオーナー。


いまいち意味を掴んでいないようだが、回転の速い頭はとりあえず次の話題か、という判断をくだしたようだった。



「そういやァ、来週の金曜はまた次の日休みで問題無ぇな。

先月もそうだった、まるで俺たちの為に設えたみてぇじゃねぇか、なァ?」


「はぁ…。」


来週の金曜。先月も金曜。

…あぁ、ホワイトデーとバレンタインの話か。


私は適当な返事を先に返してから思考してみたが、幸いにも何のことやらに思い至ることができた。



確かに仰る通りなのだが、何故一緒に過ごすことを当然のように宣っているのだこの人は。

最早誘いですらない。


というか、私はともかく貴方は、人生に於いて曜日なんて関係あるんですかね。



「てか、私あげたのキットカットファミリーパックだし…、

クランキーホワイト返してくれるとかでいいですよ?」


「………


まァ、それも悪くねェブランドだが…、」


一瞬黙りこみ、またも明らかな知ったかぶりをしていると予想されるドフラミンゴさんはしかし、持ち前の立ち直りの早さで口角を上げた。



「お前の望む処へ連れて行ってやる。」


大仰な台詞を吐いて両手を広げるジェスチャーをする仕草は、この男ならば何でも意の儘だろうと思われるほどのオーラはあった訳だが。



「そう言われても思いつかないし…、


ドフラミンゴさんに任せます。」



「フッフッ…!おいおい大胆だな名無しさん、俺に身を任すだと…?

俺のシてぇコトでいいってのか?」


「全力で自分で考えます。」


最早ツッコミもせずにセクハラを躱す、そんな無駄スキルが高まるバイト先だ。



「んー…、そうだな。

あんまり高級過ぎる場所だと妙に緊張するし…、


庶民っぽく遊園地でお願いします。」


バレンタインの際、カルヴァトスという小洒落たお酒を御馳走になったが、その店は会員制らしき高級バーであった。


キットカットなんか持ち込んで大丈夫なのか、と冷や汗をかいたものだった。



「あァ?遊園地だァ…?」


「そういう訳なので、今みたいなスーツ姿は無しってことで。」


私はそう言って、グレーストライプのスーツに大きく襟の開いたパープルのシャツ姿を、眩しそうに見上げた。



どういう訳だかバレンタイン以来、派手派手しい格好からビシリと決まったスーツ姿が多くなってきていた。


私の言葉にメキリと眉間に溝を作り、言外に何故だと問うような視線を向けてくる。



「遊園地にスーツとかフツウに無いし、

…あと格好良すぎて隣に並ぶの気が引けるんで。」



「…。」


何の気も無く淡々と説明をしたのだが。


何故かいつもの人を喰ったような三日月スマイルと逆のへの字口になったかと思うと、無言で背を向けて別室へ去っていった。



「…?」


何だろ、何か気に障ってしまったのだろうか。


私は5秒間ほどソワソワと落ち着かない気分になったが、6秒後にはまぁいいか、と落ち着きを取り戻してドリンク用のグラスを磨き始めた。



「お前…、あの人を照れさせるとか有り得ねぇ…」


そのとき、いつものことながら奥へと引っ込んでいたベラミーがひっそりと此方を覗き、白目の面積の多い丸い目を更に丸くしていた。


「…は?照れ…?」


あまりにも似つかわしくない表現に思わず手が止まる。



「あれが照れ顔だったら表情筋おかしいだろ、ヒト科の生物として。」
 

「おまっ…!

馬鹿黙れ、聞こえたらどうすんだ!」


後半の台詞を非常な小声で、しかし大変険しい顔で発するベラミー。



「何焦ってんの…まぁいいけど。


ところでドフラミンゴさんってスッゴイ質問魔だよね。

私、今朝食べた目玉焼きの焼き加減まで話したんだけど。一体何が楽しいんだろ。」


「………有り得ねぇ。

あの人が女のそんなくだらねぇことに興味を…」


「そうだよね。

笑いのツボがイカれ…ムグッ!?」


「だ、黙れってお前、いい加減に…!」



「…ほォ、随分と仲がいいようだな。」


ベラミーが心底焦ったように私の口を後ろから覆った瞬間、背後から低いじっとりとした声が響いた。



「ち、違う…!

俺はこんな女、ドリンクサーバーの故障で溺れ死ねばいいと常々思ってる…!」


「前回より殺意に具体性が…!

しかも死因がくだらなすぎる。」


再度現れたドフラミンゴさんの前で漫才のようなやり取りを繰り広げていると、何やら面白くなさそうな顔をして壁に背を凭れさせている。



「チッ、取引の時間か…。

名無しさん、金曜にまたな。」



ふと高級そうな腕時計に目を遣ったドフラミンゴさんは、一方的な約束を残して颯爽と去っていった。



「ところでさ、オーナーって遊園地行ったことあんのかな?」


「…無ぇと思うぞ…。」



自分で希望したにも関わらず不安になりベラミーに尋ねると、さもあらんという回答が返ってきた。



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