dream■mid_Dofla_modern parody
□大富豪廉価VD
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「よぉ名無しさん、
今日も深夜までミッチリだなァ?
精出して働けよ、フッフッフッ。」
「…はぁ、
今日も頑張ってひたすら座ってます…。」
バイト先のカラオケ店のオーナーは、私の斜め後ろのソファにドッカと腰を下ろすと、行儀悪くカウンターに長い両脚を載せた。
「ドフラミンゴさん…、暇なんすか?」
週4以上というハイペースでシフト入りしている私と、どうやら此処などものの数にも入らない規模の店を多数所有しているらしきドフラミンゴさんは、結構な高確率で遭遇していた。
「そうだな、事業がうまくいき過ぎるってのも退屈なもんだ。」
ニマリと独特な三日月スマイルを浮かべ、横柄な様子で両腕を背凭れにかける。
その流れで指に触れた背後の棚の安酒のボトルを煽ると、クソ不味ィ、と悪態を吐いて投げ捨てた。
「ていうか…、
そもそもここってホントにカラオケ店なんですか?」
大学に通う傍ら働きはじめて以来、信じられないことにこの店では、一度もカラオケをしている客を見たことがなかった。
訪れるのはどう見てもカタギでない輩。
形式上部屋代は払っていくのだが、カラオケ機器には手も触れずに怪し気な密談をしている。
偶に頼まれる飲み物を運んで行くと、何やら得体の知れない隠蔽物の取引のようなことが行われていることもあった。
「フッフッフッ…
そいつァ聞かねぇほうが身の為だぜ?」
さもあらん、聞いておきながら明確な回答が無いことにひどく納得した私は、賢明にもそれ以上の追求を引っ込めた。
三ヶ月前、奨学金でぎりぎりの生活を送っていた貧乏大学生の私は、求人雑誌を手に街を歩いていた。
そしてギラついた目つきで「高収入アルバイト」のページを真剣に漁っていたときのこと。
「ネェちゃん、ラクにカネになるいいバイト紹介するぜ?」
低い、妖し気な声が空から降ってきた。
見上げると、それはこれまで見たことも無いような高い位置の大きな口から発せられていたことがわかった。
一際目を引くのは男のその身なりで、ド派手なショッキングピンクのフェザーコートを羽織っている。
そしてその年齢ではこの男くらいしか似合わないと断言できる、筋肉質な胸板の覗く広く開いた柄シャツに七分丈のスリムパンツ、個性的なサングラス。
それでいて決してただのチンピラではないという大物オーラが漂っていた。
どうやら余程周囲を見ていなかったらしく、都心部の柄の悪い歓楽街に足を踏み入れてしまっていたらしい。
通常であれば最寄りの交番に飛び込むような状況、真に受ける馬鹿など居ないというほどの危険な香りがする勧誘であったのだが、駄目な方向に度量の据わった苦学生の私はすかさず話を聞きたいと申し出ていた。
その蓋を開けてみればカラオケ店の受付、しかもほぼただ座っているだけで時給1800円。
最早怪しすぎて突っ込めないという美味しすぎる話だが、今のところ売り飛ばされる気配も無く無事に過ごせている。
「おい名無しさん、
こっちのソファに座れ。」
回想からハッと現実に引き戻された私が振り向いてみると、ドフラミンゴさんが大きく開いた大股の間を指し示している。
「………結、構、です。」
せめて隣であればともかく、いや規格外の男が腰掛けているそれの左右に隙間などは無かったのだが、想像するに論外な背凭れだ。
「そんなショボい固ぇ椅子なんかに長時間座れるモンじゃねぇだろ。」
表面上気遣いに溢れた台詞で、微塵も気遣いなど感じさせない下卑たスマイル。
私は三ヶ月間で習得した、得意の「鼻であしらい流し目半眼」をくれてやった。
「貧乏人は固い椅子のほうが慣れてるんで。
充分快適です、お気遣い無く。」
「フッフッフッ、固ぇのが好きか…、お望みなら俺がリクエストに応えてやるぜ?
尚更最適なんだがなァ…。」
「………。」
当初の提示通りの高時給と、あまりにも楽な仕事内容。
最初こそ流石の神経の太い私でも、本当に良いのだろうかとの戸惑いが渦巻いていたのだが。
今となってはセクハラ耐え賃だと考えると、その申し訳無さは跡形も無く消滅していた。
「あ、
ベラミー今日は早いね。
ちょうど良かった、この機械が壊れちゃったみたいで…」
「ドフラミンゴさん、お疲れ様です!!」
「私を丸無視するなオイ!感じ悪いな。」
ややあって、この店の唯一の同僚であるベラミーが出勤してきた。
此方は若さゆえチンピラ風情が抜けきっていない雰囲気、短い金髪に、どんな服装でもインナーは常にピンク。
その姿からも態度からもドフラミンゴさんへのリスペクト度合いが半端無いことがダダ漏れな、忠犬ベラ公である。
「よぉベラミー。
例のブツは無事入荷したか?」
「勿論だ、アンタの指定日にゃ充分間に合う。」
褒めてくれと言わんばかりに得意げな顔、それこそ犬であったら今、尻尾が千切れんばかりにブンブンと振られていることであろう。
「ねぇってば、このドリンクサーバーが動かなく…」
「煩ぇな説明書あんだろ、自分で見ろ!」
水を差されたせいか、小鼻に皺を寄せて威嚇された。
「何さ、二人きりのときは付きっきりでイロイロ教えてくれるのに。」
口を尖らせて不服を漏らすと、それを聞いたドフラミンゴさんの片眉がピクリと蠢いた。
呼応するようにベラミーの顔が引き攣る。
「…ほぉ、
随分手厚く名無しさんの面倒を見てくれているようだな…?」
お前は良い先輩だな、感心感心。
ーといった雰囲気では決してない剣呑なオーラ。
私は首を傾げたが、気にせずその言葉に同意した。
「そうそう、ベラミーって意外とこう見えて手取り足取り…」
「ごっ、誤解だドフラミンゴさん!
俺はこんな銭ゲバ女、本当は口も利きたくねぇし寧ろ死ねばいいとすら思ってるんだが仕方無く…」
「…何で私、アンタに謂れのない殺意を覚えられてる訳…?」
ちっとも話が進まず結局問題が解決しないことに業を煮やした私が渋々説明書を読みだしたところで、ドフラミンゴさんが別の話題を持ちだした。
「…まァいい、とりあえずこの間伝えた宴会だ、お前ら来るよな?」
「言われるまでもねぇ。」
「タダで飲み食いできるのなら喜んで参加します。」
今週末に開催されるらしきバレンタイン宴会とやらは、この界隈のドフラミンゴさんの傘下が主催のイベントであるという。
一体何の傘下だというのか、知らないほうが身のためなのだろうが貧乏性の私には超絶朗報以外の何物でもなかった。
それぞれ別の理由で即決の私たちをニヤリと見遣ると、オーナーは口角を上げてバサリと音を立て立ち上がり、店を去って行った。
「…オイ、
お前な、あんまり俺と…、接触してるとこをドフラミンゴさんに見せんじゃねぇ。」
「………は?」
確実にドアが閉まったことを見届けると、ベラミーはすぐに私を振り返り小声で諭した。
「…………え、
もしかしてベラミーとドフラミンゴさんって……
そういうカンケイなワケ?!」
言われてみれば無くもないような心酔ぶりではあるが、流石に身を引いて顔を引き攣らせる。
「馬鹿野郎、そっちじゃねぇ…!」
「………は??
そっち?何それ、じゃあ正解はどっちだっていうのよ。」
訳がわからないといった表情で見返す私に舌打ちをし、額を手で覆っている。
「…許可無く言えるかボケ!」
大体お前が鈍過ぎるんだ、と意味不明なことを呟くベラミーに、私は益々疑問符を浮かべた。
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