dream■mid_Croco_trip

□大人の夏夜遊戯
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「クソー…何で恋敵の手助けを…

てか名無しさんさんの着付けは俺がしたかったのに…」


「ほざくな、早くしやがれ小僧。」


衝立の向こうで、男二人の声が聞こえる。



「あーあ、クロコダイルさんの着付けは私がしたかったのに…」


かたや女二人のこちら、視線の下では後輩女子が口を尖らせて私に帯を巻き付けている。


「上半身裸体くらいなら、写真一枚三千円で売ってもいいよ!」


「ほんとですか!?

きゃー買う…!」


「撮らせねェぞ。

…名無しさん、てめェ自分の男を売り物にすんじゃねェ。」


「チッ…」


「えーっ、残念…」


何やらカオスな会話が飛び交う、イベント会場の衣装部屋。



会社で今夏発売する「大人カップルの浴衣」。

全く同じではないが揃い感のある男女のペア浴衣の、販売及びレンタルを開始する。

そのためのPRイベントに、いわく「見目よい社員」数名がステージにモデルとして出されるという訳だ。


その際あろうことか、上司含め会社に「是非クロコダイルさんと!」と熱望されてしまった私。


予想通り鼻で嗤って相手にしなかったが、そうでなければ例の後輩男子と私がカップル設定になることを知った途端、渋々ながら首を縦に振った。



出演者かつ着付けのできる後輩女子と男子が衣装係となったが、どっちがどっちを担当するかで一悶着した。

私はぶっちゃけどっちでも良かったのだが、張り切って私の浴衣を手にとった後輩男子の首根っこを、クロコダイルが掴んで引き戻したという訳だ。



「できましたよ、センパイ。

あーっ、悔しいけど似合う!普段全然無い色気が凄い醸し出されてるかも…」


「…一言多いんじゃない。」


自らもピンクの可愛らしい浴衣で満悦そうであったが、妬ましそうにジットリとした視線を向けられる。



「できたんですか?!早く見たいなぁ。

こっちも終わりましたよ。……名無しさんさんに見せたくねえけど。」


最後の呟きはボソリと悔しそうに独りごちる音量。



衝立から出てきた私たちは、お互いの姿を見て暫し沈黙する。


「………っ、

か、格好良過ぎる……」


人前を忘れてぽうっと魅入ってしまう私。

濃紺のよろけ縞の浴衣はクロコダイルの渋さを憎いほどに引き立て、またその人並み外れた体躯で男らしさが際立っている。



「名無しさん、そいつァたいして売れねェんじゃねェのか?」


しかし対照的に眉間皺を寄せたクロコダイルの言葉に、一気にショックのどん底に落とされたー



「てめェ以外の女が着ても映えねェだろ。」


「…!!?」


一瞬、何を言われたのか理解できなかったが、解った途端に二の句が告げなくなってしまった。


―また何という天然殺し文句を―!

どうやら本人の自覚はゼロらしい、何事も無かったように葉巻を銜える姿に、後輩男子が悔しげに大きく舌打ちするのが聞こえた。



「はぁー…センパイあんな素敵な男性にあんなこと言われて…羨まし過ぎるぅぅ…!!」


後輩女子の甲高い叫びを背に、私たちはステージへと上がっていった。






「あーお腹すいたからいい匂い!!

ねぇクロコダイル、焼きそばとたこ焼きどっちがいい!?」


「…どっちも知らねェよ。

好きに選べ。」


缶ビールを片手にそぞろ歩いているというレア姿のクロコダイルが脱力したように言う。


大盛況に終わったイベント後。


実は本日行われる大きな夏祭りに合わせての開催であった為、終わる頃には夜店がいい雰囲気で出揃っていた。


興味無く帰ろうとしていたクロコダイル、しかし「じゃあ後日俺と!」と意気込んだ後輩男子の一言で、やはり二人で行くことが決まった。

あのコも仕事はキレ者なのに、こと恋愛に関しては自分で自分の首を締めていることにいい加減気づけよと私ですら思う。



「じゃあ、どっちも買って分け合おうそうしよう!

あ、でもイカ焼きも捨てがたいなー…」


次々と屋台を見渡していると、頭上から珍しい吹き出すような声が聞こえた。

視線で何?と問いかけると、苦笑の表情が浮かんでいる。


「……ガキみてェだな。」


後輩女子の、『センパイ、今日は折角見た目は色気あるんだから中身もお淑やかにね!』という言葉を思い出してグッと詰まる。


私にそんなものは到底、醸し出せそうもないようだ。


「悪かったね!

…てかそもそもクロコダイルはお祭り自体興味無かったよね。

腹ごなししたら帰りますか。」


ちょっと寂しい気持ちを押し隠して言うと、あァ興味は無ェな、と応酬されガックリと項垂れそうになった。



「名無しさん。」


とりあえず食べ物を買ってしまおうと一歩踏み出したとき、手首を掴まれ引き止められた。



「てめェは学習能力が無ェな…

前に言っただろうが。」


ハの字眉に紫煙と吐息。

これはいつも、私のことを想ってくれているが故に呆れたり、仕方無い奴だというときの仕草。



要は、てめェにとって意味があるとわかりゃァ、俺の価値観もその時点で変わるということだ。

…だから本音を隠したりするんじゃねェ。



「―あ。」


慥か最初はバレンタインのときだった。

そう言ってくれたのを思い出して思わず声を漏らす。



「…解ったならくだらねェことを考えずに好きなようにしろ。」


そう言って吸い終えた葉巻と空のビール缶を捨て、懐手をしたクロコダイルがやっぱり格好良くて、私はいつになく素直にその逞しい腕に手をかけた。



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