dream■mid_Croco_trip
□double camouflage…?!
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「冗談じゃないです。
絶対嫌です無理です。」
「君が仕事で『無理』という言葉を発するとはね…、
入社以来初めてじゃないか?」
「それは仕事の範疇ではありません!」
私は上司のデスクにダンッと両手を付き、ギロリと睨み上げた。
朝からやたらとにこやかな腹黒上司に呼び立てられ、構えながら出向すると、あろうことか見合いのような話だった。
一ヶ月ほど前、外資系の外国人社長連と、取引に先んじた食事会があった。
その際に先方の社長が私をいたく気に入り、息子に会わせたいと申し出て来たのだという。
「まぁ、今回はそう堅苦しいものじゃあないよ。
先方に招待されてるレセプションで、挨拶という形を取るだけだ。
どのみち、そのパーティには勤務あがりに出席して貰う予定だったんだからね。」
それに出席することに意義は無いが、そんな御膳立て前提の邂逅など軽々しく了承できる筈も無い。
私がムスッと沈黙していると、上司は態とらしく明るい声を出した。
「なにも結果的に約束を結ばなくてもいいんだ。
しかし寧ろそうなっても、君にとっちゃあ困ることは無いだろう。国際結婚、玉の輿だぞ?」
あろうことかこの私を、そんな前近代的な言葉で釣ろうとするとは。
「そんなの狙ってません!
それに、…そうなったら困ります。」
失礼なことに、上司は意外そうに目を丸くして私を凝視した。
「何?
……まさかとは思うが、決まった男がいるのか?」
まさかって何だおい。
そう罵りたいのをグッと堪え、低く応酬する。
「……………居ます。」
「何だって!?
重度の仕事中毒で、見た目だけで中身は色気の欠片も無い君に男が居るのか!?」
こンの糞上司…!
罵倒が咽喉辺りまで込み上げたがしかし、超人的な忍耐力で押し留めた。
「ええ、恐縮ながら。
という訳なので、ご要望に添えず申し訳ありません。」
クロコダイル顔負けの青筋を額に浮かべながら、私は形式張ったお辞儀をするとその場を立ち去ろうとした。
「待ちたまえ。」
冷静な声で呼び止められ、未だ睨みを効かせながら足を止める。
「だったら、先方に断りを入れる理由を提示する必要がある。
…その辺りの理解力は、君ならあると思っているのだが。」
「……。」
哀しいワーカホリック女の性で、それに対して感情的な反論はできなかった。
「あちらの国式のパーティだ。
伴侶や婚約者の同伴は可になっている。」
「……
諸事情があって、彼は参加できません。」
異世界人、顔を横断する傷、あの大きな厳つい風貌。
それに何よりも、どんなに頼み込んだところで絶対に来てくれる筈も無い。
「カモフラージュで構わん。
誰でもいいからパートナーを連れて出席してくれ。」
最大の譲歩だと云わんばかりに話を打ち切られ、私は恨み事を堪えながら重い足取りで自席に帰った。
「クロコダイル、ちょっと…、
お尋ねしたいことがあるのですが。」
「あ?」
その夜、ちょうど昨日から此方に出現したクロコダイルに夕食後、おずおずと声を掛けた。
「改まって何だ、気色悪ィ。」
PCから顔を上げ、怪訝そうに顰められる眉。
初っ端から先を続けにくい、無愛想さ溢れる反応だ。
「パーティーとか………、
好き?」
暫し沈黙が流れたが、ややあってふーっと紫煙が長めに吐き出された。
「そう見えるのか?」
「…ですよね。」
空笑いをして頬を引き攣らせると、仕事の話か、と訊かれ頷く。
「まァあっちの世界にも、ビジネス上のくだらねェパーティなんかはある。
わからんでもないが、エスコートは必須じゃねェだろうが。」
「う、
…うん。」
誘っている本当の理由がどうしても言い出せず、言葉を濁す。
だって私とクロコダイルは、恋人ではあっても婚約者ではない。
ましてや他人にお披露目できるような関係性でもないのだ。
このことで私がクロコダイルの気持を試してるとか、一方的に思い込んでいるとか、重く捉えられたら嫌じゃないか。
「だったら話は終わりだ。
その程度のことで甘ったれんな、自力で乗り切れ。」
「………はい。」
どうやら、単に心細いなどの理由で付き添いを頼んでいると捉えたらしい。
…そんな可愛気のある女じゃあないんだけど。
色んな気持が綯い交ぜになって軽く溜息を吐く。
と、暫くじっと此方の様子を見ていたクロコダイルが不意に、立ち際に私の頭をくしゃりと撫でた。
視線を上げるとすぐに顔を背けられキッチンへと脚を運び、ややあってコーヒーの香りが立ち込めはじめた。
相変わらず甘やかしてはくれないが、そういうぶっきらぼうなところがらしくて好きだな、と思う。
あくまでついでだというように2つ目のコーヒーカップを荒めに置かれた瞬間から、私は笑顔を作った。
―この件は、クロコダイルを煩わせず解決しよう。
そう心に決めた。
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