dream■mid_Croco_trip

□その男、ナチュラルキラー
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「ねぇクロコダイル。

どれが一番いいと思う?」



自宅での持ち帰り仕事で、珍しくPCではなく写真を広げている私。

新企画商品のモデル探しだ。


目まぐるしく先を急ぐこの業界は、既に夏商戦に向けて動き出していた。


「…あァ?」


聞いているのかいないのかわからない生返事で、PCからチラリとだけ顔を上げるクロコダイル。



「だから。私の仕事の相談。

この中から選ぶならどれ?

個人的意見でいいからさ。」


クロコダイルってセンスいいし、と乗り出すと、舌打ちをしながら億劫そうに写真の束を受け取った。


しかしいざ選ぶとなると、真剣な鋭いまなざしで1枚1枚を繰っている。

そこは適当にしないところは流石といったところか。



「コイツだな。」


迷わずきっぱりと選んだ一枚を私に差し向ける。


それは明る過ぎない栗色のロングヘアの、ぶりっ娘を感じない可愛らしい笑顔の清楚なモデルだった。

確かに有力候補の一人であり、プロジェクト仲間の間でも推す声が多い。


勿論おこがましくモデルと同等に考えてなどいないが、自分とはかなり違ったタイプであることに少しショックを受ける。

頼んでおきながら複雑な心中に、乙女か!と心中自己突っ込みを入れる。


クロコダイルの恋人になってからというもの、これまで居なかった自分が出てきたりして戸惑うことが、多々ある。



「そ、そっかー、なるほどね!流石お目が高い!


…参考までに、どの辺りが選出ポイントだった?」


「まァ単に俺の好みだが、奇抜じゃねェがよく見りゃァ個性もある。

華もあるしラインも整ってる、他を圧倒してんじゃねェか?」


意外に乗り気なベタ褒めに、何やら胸の奥からムカムカする何かが込み上げる。


―何自爆してんだ私は。

というか前はもっとクールな筈だったのに、自分で自分が恥ずかしい。



「協力ありがと!

じゃあこの女の人で推薦してみるね。」


大人なクロコダイル相手に、まさかこんなことで理不尽に拗ねる訳にもいかない。


私は持ち前の根性空元気を出して残りの写真の束を笑顔で受け取った。



「あ?…女?」


が、何故かその言葉に怪訝そうに眉間皺を寄せられた。


私も同様に不可思議な顔をしたのだろう、クロコダイルは今頃気づいたというように軽く目を瞠った。



「…あァ、生身の女だったか?

マネキンかと思ってたぜ。


まァそれはどうでもいいが、服の話だったんだよな?」


「ど、どこをどう見たらマネキンなの!?

服じゃないって、モデルモデル!!」


思いもかけない勘違いをされていたと判明し、再度写真束を押し付けて選出を促す。


クロコダイルは面倒臭そうにじっと見比べていたが、やがてハの字眉を顰めて脱力した低い声を出した。


「…どれもたいして違いが無ェ…。」


「いやいやいやいや、誰が見てもぜんっぜん違うタイプばっかじゃん!よく見て!?」


かなりのコストと時間をかけてオーディションをしたのに何ということを…!


さきほどの感情は何処へやら、焦りすら覚えて三度目の強制選出を促す。



しつこい押し付けに、溜息の入り混じった紫煙を吐きながら出された最終回答は予想だにしないものだった。



「てめェがやりゃァいいだろ。」


「……………、

は?」


意味がわからずポカンと口を開けていると、気怠そうに首をポキポキと鳴らしながら事も無げに言い放つ。


「一番いい女を起用するんだろうが。」


「………!??!」


一瞬誂っているのかと思い、急いでいつもの嘲笑を確認してみたが、そこには何の感情も見受けられなかった。


「広告費も浮くし言うこと無ェだろ。」


「そ、っ、そういう問題じゃ…!」


あまりにもさも当然といった態度に二の句が継げずにいると、気短な男はもう我慢がならないというように大きく舌打ちをした。



「煩ェな…、

俺の意見でいいんだろうが、文句あんのか。」


心底鬱陶しそうな声、そして話は終わりだという風にPC画面に視線を引き戻した。



「い、いえ、ゴザイマセン…。

なんか…、


お忙しい中スミマセンデシタ…。」


フンと鼻を鳴らし、わかってるなら邪魔すんなと追い打ちをかけられた。




「……クロコダイルって………、


ある意味天然…!?」



私はコーヒーを取りに行くふりをして台所に逃げ込みながら、まだ不整脈のように蠢いている心臓辺りをぎゅっと鷲掴んだ。



甘い言葉は何ひとつ無いのに、それ以上の殺傷能力を発揮する罪な男は、何事も無かったように無機質なキータッチ音を響かせていた。



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