dream■mid_Croco_trip
□胡座とマシュマロに包まれて
1ページ/3ページ
検索:ホワイトデーの由来
(前後略)
バレンタインチョコのお返しとして「君からもらったチョコレートを僕の優しさ(マシュマロ)で包んでお返しするよ」とチョコマシュマロを―
「……。」
「……。」
初春であるのにまだ絶賛活躍中の炬燵で、私とその恋人は同じPCの画面を覗き込み無言になった。
「ちょっとクロコダイル、この台詞言ってみ。」
「…俺の口から聞きてェのか?」
拒否すらもせずに冷静に問うてくる、葉巻を咥えた四十四男。
「………………イヤ、
やっぱいい…、ごめん。」
「………だったら言うな。」
想像して即「無いわ」と思い返した私は、顔を引き攣らせて首を振った。
「それ以前に貰ってねェだろ。」
「あげてないよね。」
バレンタインは色々あって、結局未遂に終わった。
けれどもあのとき、そういったことを隠すなと言い含められた教訓を活かし、ホワイトデーに関しては事前告知をした。
それはどのようなものかと問うので、クロコダイル御用達のグーグル先生にて情報を引き出したところ、先に記した記載があり現在に至る。
だがわかったところで、お返しイベントである以上、まずは仕込みとしてバレンタインをこなしていないと成立しない。
折角ちゃんと提示したのに、何の意味もない。
「まァ、菓子くらい腐るほどくれてやるぜ。」
「や、別にいいよ…」
何か違う、それちょっと違うと思うんだ。
それにクロコダイルが柄にも無くそんなことを気にかけてくれているだけで、強がりではなく充分かな、という気持ちが湧いてくる。
その心中を感じ取ったのか、クロコダイルもそれ以上はその話題を続けること無く、画面は最新ホットニュースへと移行した。
「えー、それあんま見ない。」
「この世界の女のこたァ知らねェが、話題のモンにゃ普通飛びつくんじゃねェのか。」
「流通と経済以外興味無い。」
「…可愛気無ェ女だな。」
恋人の甘い会話とは程遠いが、何気ないひとときに安らぎを感じる。
自宅持ち帰り仕事をしているときは別として、こうして話をしながら身を寄せ合ってひとつの画面を覗き込むようになったのはいつからだっただろう。
「ハッ、さっきのくだらねェ菓子の有名店だとよ、てめェの会社の近くじゃねェか。」
「……。」
「…
おい、名無しさん。」
「ん…、
…った!」
暫しクロコダイルの操作で画面は進んでいたが、金曜日の夜で一週間の仕事疲れが押し寄せたのか、私はうつらうつらと船を漕ぎはじめていた。
ガクッと首を落とした際、隣にあったクロコダイルの筋骨隆々の固い肩に額をぶつけた。
「おっとごめんよ。」
謎に江戸商人風の返答をし、また首を起こして画面を見遣る。
「……。」
「おい…」
「ハッ。
マジごめん、もう寝るわ…」
また同様の状態となった私は、踏ん張る理由も特に見当たらなかった為、寝ぼけ眼でのろのろと腰を上げようとした。
「じゃあお先に寝まー…
のわっ?!」
しかしそのとき、大きな掌にグイッと乱暴に後頭部を押さえつけられ、炬燵布団にぼふりと顔正面を突っ込む形となった。
何だ何だと混乱して身体を反転させると、真上には厳つくも端正なラインの顎。
「ここで大人しく眠っていろ。
…後で然るべき場所に仕舞ってやる。」
見上げた先の喉仏が上下し、降り注ぐ低い声。
それは照れ隠しのときによく聞く、他人が聞いたら大層不機嫌と勘違いされそうな声色だった。
「…っ、物扱いか!」
つまり後でベッドに運んでくれるということだろうが、不器用男らしい物言いである。
私もまた照れ隠しのツッコミを返し、クロコダイルの胡座枕となった内心の動悸が伝わらないかと、少し身体をずらしてその言葉に甘えた。
.