dream■mid_Croco_trip

□異世界捏造VD
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「…オイ名無しさん、てめェこりゃどういうつもりだ。」


クロコダイルは、眼前に広がるスウィーツの山にピクピクと青筋を立てて私を睨み付けた。



「え?いや、特に深い意味は…、

偶にはこんな夕食もいいかなっとか!」


「…いい訳が無ェだろうが。

俺が甘ェモンを好かねェのは知ってるだろう。


何だ、俺が暫くこっちに来れなかった腹いせのつもりか?」


炬燵向かいで皮肉っぽい口調で眉根を寄せる、砂漠の英雄兼社長。





異世界から突然出現したクロコダイルと出逢って1年ほどが経った。


向こうの世界から此方へ来る為の砂嵐の制御をものにして以来、帰宅すると彼が居座っている、という形の邂逅をしてきた私たち。


逗留期間や次に会うまでの期間は当然まちまちであった訳だが、ここ数ヶ月、向こうの世界のことで忙しいらしく出現率が低下していた。



「いやまさか!!

男は仕事第一、女は二の次三の次でしょ!」


鼻息を荒くして炬燵机をバンと勢い良く叩く。

スウィーツを載せた複数の皿がカシャンと音を立て、クロコダイルは一番目の前のふるふると揺れるプリンから若干身を引いた。


強がりで言っている訳ではない。


仮にも私が惚れた傑物、本業をおろそかにし、女のもとにデレデレと通うような男であってはならない。


ー尤も、予測するにクロコダイルが仕事に精を出さないほうが、彼の世界の平和の為ではあると思われるが。



「…まァいい。

とりあえず、俺にこういったものを金輪際出すんじゃねェぞ。」


追求が面倒になったのか余程甘いものが嫌いなのか、眉間に複数の皺を寄せて苦いコーヒーを口にしている。


「あー…

なるほどオーケーオーケー、


…じゃあやっぱチョコレートとかイラナイよね。」


「あ?」


最後の台詞はポソリと独り言程度であったが、耳敏いのか怪訝そうに問うてくる。


「何でもない。ではコンビニチキンを買いに行くとしましょう。」


調査終了。


私は自分の中で結論付けると、まだ腑に落ちない顔をしているクロコダイルを促して炬燵から立ち上がった。






バレンタインデーが近づいていた。


哀しいことに近年、仕事の関係で義理を配りまくる面倒以外のなにものでもなかったイベント。

だが今年は「本命」が居る訳で、けれども相手はそのような文化も知らない、イベントごとに興味も無さ気、その上甘いものが嫌いという三拍子である。


説明すれば鼻で嗤われるだけであると踏んだ私は、こうやって馬鹿馬鹿しくも遠回しにリサーチをかけてみた訳だが、案の定クロコダイルには心の琴線に触れるスウィーツというのは存在しないようだ。


ー決まりだ。

バレンタインの本命は、今年もナシ。


私はコンビニから戻ると、どことなくうら寂しい気持ちを押し殺しながら、厭味のつもりかスパイシーチキンを選んだクロコダイルの前で、仕方無く大量のスウィーツの消費をはじめた。



「…よくそんなモンをそれだけ食えるな。」

気持ち悪そうに此方を見ている金の双眸。


繰り返すが、好いた男の色香漂う魅惑の瞳で、キモチ悪そうな視線を向けられた、のである。


こりゃ本当にナシだな。


私はへらりと覇気の無い笑顔を向けると、それもまた気味悪そうに眉を潜められ頬が引き攣るのを感じた。






「重ね重ね一体何のつもりだ、あ!?

言いてェことがあるならはっきり言いやがれ…!」


「ま、まぁまぁ落ち着いて!

言いたいこととか無い無い、短気で自分勝手で俺様で極悪非道とか別に思ってナイナイ!」


「…てめェ枯らされてェのか。」


今年度最高本数の青筋を立てながら、ドス黒く低い声を出し風呂桶の前で怒りを呈するクロコダイル。


そこには茶色で甘い香りのする湯が張られており、内心の焦りを誤魔化そうとしたつもりが更に要らぬことまで口走ってしまった。


この日に限って、ぼうっとしながら入浴剤を入れるとまさかのチョコの香りであったというミラクルを起こした私。


何やかやと言い訳をしつつ、これはますますチョコレートをあげることなど一生できないな、と決意を新たにする。



風呂あがり、最大限の仏頂面でスイートカカオの香りを纏った厳つい大男は、濡れた黒髪を掻きあげながら不機嫌な声を出した。


「俺は明日、戻るぞ。」


「え…、早っ。

ごめんってば、そんな怒んないでよ!」


「…別にそれとは関係無ェ。

ちとあっちが立て込んでる。元々その予定だった。」



関係無いってことは、怒ってはいる訳ですね、ハイ。

心の中でそう思った私はしかし、くだらぬ諍いで怒って帰るという狭量な真似などはしない男だとわかっている為、その言葉の信憑性は疑わなかった。



「えっとさ、2月…

あっ、こっちの暦でね。


その、いつくらいに来る?」


我ながら未練がましいと内心苦笑したが、真意を伝えることはできないまま思わず尋ねていた。


「あ?

現状じゃわからねェな。

…何だ、2月に何かあんのか?」


いつものトーンに戻った声に安堵はするも、私は最後の砦を失い落胆しつつ首を振って何でもないけど、と肩を竦めて見せた。



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