dream■short_U

□ウザウザ恋愛攻略法
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「ねぇクロコダイル、

私のことどれくらい好き?」



「死ね。」



「…っ!!

え、…

嘘でしょ…!!」



私は微塵も顔を上げずに即答する、社長席の厳つい大男を劇的に見遣り、口を両手で覆った。



「死んでもいいくらい好きってこと!?

マジで!?

嬉しいもう死んでもいいっ!」


「………何なら今すぐ望み通りにしてやろうか、あ?」


よくもまぁここまで瞬時に出せるものだと感心するほど、額には幾筋もの青筋がメキメキと頭角を現す。

自分が原因ながら毎度、プツンと切れて脳梗塞で死んでしまわないか不安になるほどである。



「クロコダイルがそういうコト言うとさ、何かエロいよね!

もう好きにしてっ!とか言っていい?ねぇねぇ。」


「いいぜ。

言ったが最期てめェの舌の根も干からびてるだろうけどな。」


冗談では済まされないその迫力。


私は「恋人」である筈の男を半開きの口で見遣ったが、暫くしてその唇を全面に突き出して不満の意を表した。



「てかさー、てめェてめェっていつも…

私の名前殆ど呼んでくれないよね!!」


そりゃあ、勤務中は上司と部下のケジメがあるというのはわかる。

だが、勤務が終わって曲がりなりにも二人の時間、と呼べる間にも、クロコダイルの魅惑の低音ボイスは私の名を滅多に紡がなかった。



「何だ、そんなことが不満なのか。」


「不満に思わないほうがどうかしてるわ。」


「だったら今すぐ望み通りにしてやろう。」


「……えっ?!」


さきほどと同じ台詞だが、今度は真逆の意味合い。


まさかの受け入れと、垂れ気味で鋭い男の色気溢れる金の瞳に見つめられ、柄にもなく耳あたりに昇る熱を感じる。




「…あァ、すまねェ。


残念ながら思い出せねェな。」


「………ちょ……っ……


冗談にしても酷過ぎないか…!?」


日々罵られ慣れているとはいえ、あまりのハイレヴェルにガックリと力尽きる。


何とかふらふらと立ち上がり、マシンガン恨み事トークをかましていると、サーブルスの「サ」が聞こえてきて懸命にもピタリと押し黙った。



「煩くて敵わねェ…、暫く退出しろ。


てめェの相手は10分が限界だ。」



几帳面さを表すようにピシリと角を揃えられた書類の束をイライラと指で叩きながら、その睨貌を向ける。


これはもう色んな意味で限界かな、と察した私は、負けぬほどの眉間皺を作って睨み返してやった。



「…チィッ。」


「…女とは思えねェ舌打ちしやがって…」


誂いすら交じらない声色が涙を誘う。



私は渋々ながらも、重い脚を引き摺って扉へと向かった。







「うーん…

だんだん自信が無くなってきた…!

恋人許可されたのは気のせいだったのかなぁ…。」


洒落者のクロコダイルの趣味で作られた、BW内の重厚でクラシカルなバーカウンター作りの部屋。

そういった面では吝嗇さの全く無い我らが社長は、部下が此処で酒や肴を口にするのを自由にさせていた。


但し、誤って秘蔵棚スペースの高級酒に手を付けてしまった者は、現在消息不明となっている。



話を戻すが、記憶が慥かであるのなら―


BWへ入社し、内勤となって以来。


社長のクロコダイルの余りの渋格好良さに一目惚れし、その後追いかけに追いかけまくって、毎日毎日付き纏いしつこく絡んだ。


一日最低10回以上は貴方の恋人にしてください!と、半死半生の目に遭いながら懇願し続けること約3年。



「…チッ、

勝手にしやがれ、これ以上しつけェようなら枯らすぞ。」


その後、三ヶ月間ほど毎日「勝手にしろって恋人認定ってことでいいんだよね?!」と確認し続けたが、本気の殺傷鉤爪が襲って来たのはともかく口頭での否定は無かった筈だ。



しかしそこから何が変わったということも無く、ただ恋人と連呼しても否定はされないことだけを一筋の希望として縋ってきた―のだが。



「どう思う?ダズ。」


「気のせいだったのかもな。」


「おっとぉ…!

さすが歯に衣着せぬスパスパの実ってとこだね!」



任務から戻ると必ずとっ捕まえて酒の相手をさせる社長の腹心、ダズ・ボーネス。

いまいち何を考えているのかわからない奴だが、意外にも私のクロコトーク(愚痴)を毎回聞いてくれる。


ボスの話だから聞いているという、並ならぬ崇拝心からなのかもしれないが。



「何だ、今更弱音か。」


「今更って…弱音って…。

私だって最初っから達観してた訳じゃないんだけど…!」



試しに不貞腐れたり、拗ねたり、本気で泣いたり、怒ったり、媚びてみたり縋ってみたり哀しんでみたり、八方手は尽くした。


けれどもそれらは彼の心に全く響くこと無く、いよいよもって我慢するという選択肢くらいしか残っていなかったのだった。



「そっかぁ。

…付き合ってること自体気のせいだったなら、浮気ですらもないってことか。」


「……何?」


ポツリと自嘲気味に呟いて自棄酒を煽ると、手を止めて怪訝そうに此方に視線を向けてきた。



「いやさ、こないだ見ちゃったんだよねー。

クロコダイルが、オンナと高級ホテルから出るとこ。」


できるだけ深刻に聞こえないように軽く言う。


ダズはその一文字眉を潜めたが、ややあって真顔に戻ると口を開いた。



「そりゃただの商談…」


「いやぁでも仕方無いよね。

我らがボスは死ぬほど格好良いからな!」


気休めの慰めなど聞きたくはなく、かぶせるように調子はずれの明るい声で遮った。


「並み居るオンナに擦り寄られて当然だよね。


だけどそうなったら私もいよいよもって忘却される危機が迫る訳でー。」


何しろ名前思い出せないとか言われたしね、と自虐笑いを浮かべる。


「正式に離別通告されたら、生けるシカバネの私を同情で娶ってくれる?」


その言葉に何故かダズは一瞬だけ瞠目して私を凝視したが、やがていつもの無表情に戻った。



「…まぁ、その時は貰ってやらんでもない。」


「おーおー、カタブツの君もそんなノリが返せるようになったんだねぇ、いやはや感心感心。」



酒がまわってきてへらへらとグラスを立て続けに煽る手を、いい加減にしておけと無理矢理止められた頃。


一応お姫様抱っこという体勢だが、女らしからぬ泥酔の為可愛気の欠片も無い状態の私と運搬役のダズは、廊下にてクロコダイルに遭遇してしまった。




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