dream■short_U

□無意識逆襲VD
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「スモーカー大佐、これ…、

私の気持ちです!」


「………あァ、そうか。

悪ィな。」



スモーカーは、頬を染めて可愛らしいラッピングの包みを渡してくる女海兵に、軽く頷いて見せるとそれを受け取った。


これは朝からもう何度目、いや何十度目のことであり、些かうんざりした気持ちを押し隠すのに疲弊してきている。



今週は、バレンタインデーの週である。


平素娯楽の少ない海軍では、案外イベントごとというのは毎回盛り上がりを見せる。

男性率のほうが高いこの環境下において、人によって明暗が別れることは否めないが、スモーカーはその中でもトップクラスのチョコ獲得率であった。




「……今年も当日を前にして随分大漁ですねぇ。

良かったですねぇスモーカー大佐。」


「あ?

……名無しさんか。」



収集がつかなくなり、見かねたたしぎに持たされた大きな紙袋を提げて歩いていると、廊下で部下の中尉と行き会った。


部下といっても何を隠そう、名無しさん中尉はスモーカー大佐の恋人であり、それは海軍中に知れ渡っていることであった。



「去年はまだ付き合って無かったけど…

今年は私が居るのを知りながらどういうことって感じなんだけど!


私もまだまだ舐められてるってことか…クッ!」


キーッとばかりに甲高い声を上げると、憎々しげに重量感のあるその紙袋を睨み付けた。


若くして実力あり、最近昇進したばかりの名無しさんは、海兵たちへの威光が及ぶのは時期尚早かと悔しがった。


実際はその理由ではなく、相手が居ようが居まいがスモーカーのモテ度は変わらないといったところであろうが、それはそれで気に入らないというのが女心である。



「別にそういう訳じゃねェだろうよ。

こんなモン、ただの上司への義理だろうが。」


向き合ったまま若干眉間に皺を寄せ、咥えた二本の葉巻から白煙を吐き出す。


「…それもあると思うよ、そりゃあね?

お世話になってます、って言って渡すのはまだ許せる…でも!!」


両足を踏みしめるようにして向かい立ち、今度は視線をキッと鋭くさせる。



「さっきの娘とか、『私の気持ちです』って言ってたよね!?」



「どう違うんだ。


添えられた文言で受け取るか受け取らねェか区別する訳にゃいかねェだろ。」



「………。」



我が恋人ながらここまで朴念仁とは。


名無しさんは呆れたような怒ったような表情をしたが、最終的には溜息を吐いてガックリと頭を垂れた。



「………もういいや。

段々馬鹿馬鹿しくなってきた。


…まァ精々、鼻血で貧血起こさないように気をつけてね。」


もういいと言いつつ若干の厭味を残しながら、名無しさんはひらひらと片手を振ってその場を立ち去ろうとした。



「おい、待て。」


だが、すれ違い様に軽く十手の先で肩を叩かれ足止めをされる。



「…俺にとっちゃァこんなモン、挨拶以外の何でも無ェ。


こういうモンに意味があるかどうかは、受け取り側の心持ち次第だろうが。」



…そんなことないんじゃないか?


スモーカー自身が何とも思っていなくても、彼に恋い焦がれている女が万感の想いを込めてチョコレートを渡し、曲がりなりにも受け取られたのであれば、それは無意味なものとは到底いえまい。



瞬時にそのような反意が湧いたが、女心の理解などこの不器用男に期待できる筈も無く。


まだしもこうやって、恋人への配慮が出ただけでも随分成長したと思わずばなるまいーと、本人が聞いたら怒り心頭になるようなことを心中で考えた。



「…わかってるって。

立場的に、いちいち断る訳にもいかないもんね。


もう気にしてないから、思う存分鼻血出していいよ!」


その代わり食べきれない美味しそうなのあったらちょうだいね、と言ってニッと笑い、今度こそ踵を返して立ち去った。



スモーカーはその颯爽と歩く後ろ姿を暫く見つめながら、白煙を思いっきり吸い込むとガシガシと後頭部を掻いた。



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