dream■short_U
□ドレスローザ非公式奇譚
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「此処は突然いつの間にか来ちゃった場所だけど、人に攻撃しても警察に通報されない良い国だね!
悪いヤツ相手なら、どんなに暴れてもいいんだよね?
…ね、そうでしょ王様!?」
「フッフッフッ………、
全く意味がわからねぇ。
お前、一体何処から来た何者だ…?」
王座のドレスローザ国王は、膝に載せていたその長い片脚を下ろし、背を大きく湾曲させた。
身を乗り出す形となったその大男に、呼応するようにずずいと膝を進める。
「私は名無しさん、渾名は『稀代の中二病女子大生』!
実力は高校空手インターハイ優勝、推薦で日本一の体育大に入学したという折り紙つきだ!」
拳をグッと突き出すポーズをしようとして、捕縛されていたことを思い出し身じろぎしながら舌打ちをする。
それを観察しながら王は、あらゆる知識が格納されている己の明晰な頭脳と相談してみたが、やはりこの女の言葉は理解からは程遠いと判断した。
広い口角を吊り上げた表情はいつもと変わらないが、サングラスの間の眉の無い空間はメキリと割れている。
「おいヴェルゴ、何故わざわざ拾って城まで連れて来た。
コイツがのしていたというのは街のゴロツキどもなんだろう?
確かに力はあるようだがうちの部下にするほどでもねぇ、他にファミリーに入れるような要素も無ぇ。
…能力者でも無ぇようだが?」
その派手な風貌とはミスマッチなほどオールドクラシックなチェアの肘掛けに肘をつき、名無しさんを後ろ手に捕らえている海楼石入りの手錠を顎でしゃくりながら問う。
ドレスローザの国王にしてドンキホーテ・ファミリーの若様は、そのカリスマ性に強く惹きつけられた忠誠心の高い部下たちを多数従えている。
「ん?いや、ドフィの気に入るかと思ってな。」
最高幹部のひとりのヴェルゴは、その問いに対し平素の淡々とした低い声で簡潔に答えた。
「あァ?…女の補充で献上品のつもりか。
おいおい、確かに見た目は極上品だが俺の好みは知ってるよなァ相棒?
…随分色気が足りねぇんじゃねぇのか?」
高貴な身分としては随分厭らしい笑みを浮かべながら、名無しさんをつま先から頭の天辺まで舐めるように見回す。
改めて検分すると、先に自ら発した言葉通り、非常に凛とした美貌を携えている。
対面数秒で誰もがわかるほど口を開けば台無し女ではあるが、それを閉ざしているときは思わず魅入ってしまうほどだ。
だが、ドフラミンゴに必要なのは常に、享楽的な愉しみを満喫するためだけの豊満な女たちであった。
一方名無しさんはといえば、武道を嗜んでいるという割には筋肉のつき過ぎていないすらりとした身体は見目よいが、言動もあいまって確かに色気とは遠ざかっている。
この国に入れた経緯詳細は不明だが、察するに異国あるいは異次元といってよいほどの世界から、何らかの不可解な力により出現したと考えられる。
理論では片付けられない事象など幾多も経験している海賊上がりの王は、ここまでを素早く分析した。
「何か凄い失礼なことを言われてる感は否めないけど、とりあえず警察に捕まらなくてヨカッタ!」
男たちのやり取りを伺っていた名無しさんであったが、あくまでテンションの高い姿勢を崩さない。
見知らぬ場所への謎の送還に、ヴェルゴのような厳つい男による捕縛連行。
何より誰もが畏怖する自身の姿、王という肩書、纏う覇気。
その要素どれひとつ取っても、こんな小娘が恐怖を感じないというのは到底有り得ないことである。
ドフラミンゴはそこに思い至ったとき珍しく一瞬口角を下げ思索的な顔をしたが、すぐに平常に戻った。
「フッフッフッフッ…
お前の繰り返すケーサツってなァ意味がわからねぇが、
…今の状態は捕まってるとは云えねぇのか?」
漸く尤もな指摘を受けた名無しさんは、数十秒ポカンと口を開けたまま沈黙したが、ハッと息を呑むと盛大に叫び声を上げた。
「………………
あぁぁああああああ!?
ほんとだよ!!
手錠とか完全に捕まってんじゃん私!
もしかして逮捕どころじゃないヤバい状況…!?」
ではさきほどまでは一体何をどう考えていたというのか、突然の焦燥状態。
だがそれは、恐怖というよりパニックを起こしているというほうが近いようである。
「フッフッフッ…
どうやら思った以上に酷ぇようだな。
ヴェルゴ、お前が責任持って面倒見ろよ?」
「………。」
長年の相棒であり忠臣である男は、これまでで初めて主の命令に対し、溜息を吐いて物憂げな視線を返した。
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