dream■short_U
□秘匿主義MyDarling
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「今年のクリスマスイブは忙しいよね。」
「………あ?」
「いや、だからクリスマスイブは、連休明け火曜日だからお忙しいですよね?」
「当たり前だ、てめェ俺の今の状態を知ってんだろうが。」
クロコダイルはパソコンからチラリと目を上げると、さも当然の如く宣ってまたキーボードを鳴らし始めた。
私は3パーセントほどの望みをかけた打診に失敗し、想定内とはいえ溜息を吐いてソファに凭れかかった。
暦通り勤務のクロコダイルとシフト制の私は、すれ違いが多い。
ただでさえ世間一般の恋人同士からすると、デートの回数など僅少と言って差し支え無いが、それ故であるのか彼の家には好きなときに、いつまで居ても一切苦情は言われなかった。
―まぁ、殆どが本当に『居るだけ』なんだけど。
最近、年末が近いからなのかよくわからないがますます多忙そうなクロコダイルは、毎日休むこと無くパソコンに向かっていた。
こんなときに限って偶々、イブ当日とその前の3連休という大型連休の私は、その無駄運に我ながら失笑する。
「じゃあ…
先に寝るね。おやすみ。」
「あァ。」
またチラリとだけ此方に視線を寄越してすぐに画面に目を落とす。
私もまた溜息を吐きながらひとり寝室へと向かった。
「…あれ?
キッド、ロー?!」
翌日の勤務明け、近くのスーパーで晩御飯の食材を買い終えた私は、向かいから歩いて来る目立つ長身二人組の男たちに呼びかけた。
「ン?
…おォ、名無しさんじゃねェか!」
「久しぶりだな。」
主に女性の、周囲の注目を浴びながら近づいてくる。
高校の同級生である二人とは、大学と社会人になってからも飲み会で顔を合わせることが年に数回はあった。
だがクロコダイルと付き合い始めたここ1年くらいは無沙汰をしていた私。
懐かしさに顔を綻ばせながら雑談をしていたが、不意にキッドが紙切れを出して私に手渡した。
『クリスマス同窓会〜独りのイブの寒さを旧交で温めよう〜』
「………何このセンス皆無なお知らせ文。」
私は脱力したように苦笑して二人を交互に見遣った。
「しかも場所と時間未定って。
すごい適当さ加減。」
「知らねェよ。俺らが作ったモンじゃねェ。
文言はどうでもいいじゃねェか、飲んで騒げりゃいい、テメェも来いよ。」
歯を剥いて人相の悪い笑みを浮かべる、大人になっても変わらずの馬鹿騒ぎ好きのキッドに笑みが漏れる。
「てか、ローも何気に昔から、しれっと宴会出席率100%だったよね。」
「フン、俺ァコイツに付き合ってやってるだけだ。
…どうせお前も暇なんだろう。」
こちらも相変わらずの口の悪さ、しかし含みはキッドや私と飲みたいんだなということがわかり、口の端がますます上がる。
「てか、イブにこんなン出席するとか、二人とも花盛りの年になって女のひとりもいないの!?」
「…煩ェな、今偶々いねェんだよ。」
「…女にかまける時間は無ぇ。」
「おいおーい、学生のときはあんなにモテてた癖に、何という体たらく、なさけなっ」
話しているうちに当時のノリを思い出し、沈んでいた気持も徐々にアガってくる。
「そう言うテメェはどうなんだよ。」
キッドが片目を眇めてニヤリとする。
「………一応、居るけど。
イブは仕事だって。」
私の回答に、ほーう、とばかりに身を乗り出してくる。
「ワーカホリックってやつ?
全然相手にして貰ってないけどね。」
二人はやや眉根を寄せて顔を見合わせた。
「テメェそりゃ勘違いしてるだけで、相手は手前の女たァ思ってねェんじゃねェかァ?」
「…そんなようなもんかも。」
気を引き立てるように冗談交じりに言った台詞だったのかもしれないが、まさかの肯定に押し黙っている。
「まァ、それなら尚更来い。」
ローが珍しく、柔らかい口調で言うとポンと頭に掌を載せてきた。
「テメェは昔ッから、意外に気ィ遣い過ぎるからな。
ソイツも男の為なんだろ?
…イベントごとのときくれェ、外で美味ェモン食って飲んで騒げ。」
キッドも私の買い物袋を指しながら言う。
私は、根を詰めているクロコダイルが心配で栄養を付けさせようと買った食材たちに目を落としながら頷いた。
熱い友情関係などではないが、何かあるといつもさり気なく心配をしてくれる同級生に心が温まる。
一応、恋人のある身分でイブに他の約束を取り付けるのはどうかな、とは思ったのだが…
―いっか。
だって、どうせクロコダイルとは会えないんだし。
「おっし、行く!
んじゃー場所と時間わかったら連絡ちょうだいね!」
私は意を決して弾んだ声を出すと、出席すると伝えてキッドとローと別れた。
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