dream■short_U

□クライガナ島三師弟記V
1ページ/1ページ




「ゾロ、誕生日おめでとう!」


「…おう。

そういやァそんな日だったな。」



此処は世界一の大剣豪、ジュラキュール・ミホークが居城するクライガナ島。

その二人の弟子、ロロノア・ゾロと名無しさんは、城から少し離れた、薄暗いこの地にしては景観の良い草原の木陰に座っていた。



「ひたすら剣に明け暮れて…、

すっかり忘れちまってたぜ。」


その年齢にしては渋みのある、フッと片頬を上げる軽い笑いを漏らすゾロ。


「え…?

ここ一ヶ月ほど前から毎日、『俺もあと何日で二十歳か。年月が経つのァ早ェぜ…。』とか聞こえるように呟いてたよね?


何日、の部分カウントダウンで。」


「……。」


スッと目を逸らすゾロ。



「まぁいいや、そういう訳で私、プレゼントを用意しましたー!」


「…っ!

お、大仰な奴だな…。


俺ァ…、

お前さえ居れば何も要らねェぜ?」


照れ臭そうな表情から一変、不意に真剣なまなざしで見詰めてくる。


「あ、そう?

なら取り下げます。」


暫し無言で見つめ合っていたが、その言葉に取り出した包みを再び仕舞おうとする。


ゾロはすかさず名無しさんの手首をガシッと掴んだ。


「……オイ待て。

そこァてめェ…、額面通りに受け取るとこか?」


「ええ?何、やっぱ欲しいの?

んもう、紛らわしいなー。

はいっ、じゃあこれ!」


差し出されたそれは、小さなソーイングセット。


「腹巻き、だいぶ破けてるでしょ?

コレで繕いなさい!」


「………、

俺が、か?」


「師匠は多分そういうの、やってくれないと思うよー?」


非常に突っ込みたい処が満載であるが、好意を寄せる名無しさんに貰ったものであるため、大人しく腹巻きの中に収める健気なゾロ。



「それでもやっと入手した品物なんだよ?

何せここ、物流が無い無い!」


「…………そうだな。」


だからといってもっと何か他に無かったのかと思うものの、仕方無く同意をする。



「そういや、師匠からは何か貰ったの?」


「あ?

…何も要らねェから邪魔すんなって約束を貰った。」


「…?

邪魔?」


と、気を取り直したように名無しさんに向き直る。



「てめェは気づいちゃいねェだろうが……、


名無しさん。…俺はお前に惚れてる。」


再度、真剣味を帯びた男前モードになるゾロ。



「や、まぁ…、

流石に気づいてはいるけどね。」


「…っ?!

何…だと…!?


てめェ、いつの間にそれ程の心眼を…」


「いや、

…うん、まぁ何かそれでいいや、もう。」


ボリボリと額を掻く名無しさん。


自爆に気づかぬ為、肩透かしを喰らっている感のあるゾロは、はぐらかされているのかどうかと判断に迷っていると、不意に低い声が響いた。



「初々しいな、若き弟子たちよ。」


「あ、師匠。」


「…っ!

てめェ鷹の目…!!」


ゾロは瞠目すると、こめかみに筋を立て、抜刀しそうな勢いで構えの姿勢を取る。



「俺に構うな、続けよ。」


「何が続けよだてめェ、構うに決まってんだろうが!!

邪魔すんなって約束はどうなったんだ、あァ?!」


「だから続けよと申しているのではないか。」


またも無駄なバトルが展開しそうになった為、名無しさんがいつものように収集を図ろうとする。



「はいはいストップ。

…師匠、何か持って来てるそれ、何?」


ミホークが手にしている紙箱を指し示す。


すると、徐ろに切り株に置かれ、広げられたのはワンホールのデコレーションケーキ。


「…!」

ゾロが一瞬言葉に詰まったように目を見開いた。


「わーっ、これゾロのお祝い?!」


「うむ。

仮にも、我が弟子の生誕祝いであるからな。」


名無しさんは珍しく、乙女らしく両手を組み合わせて感動の意を表す。


「師匠、その意外性カッコイイかも…!」


「フッ、

…俺に惚れ直したか?名無しさん。」


「てめェ、邪な魂胆が見え見えなんだよ!!」


ゾロは途端に表情を一変させ噛み付く。



「まぁまぁ、

とりあえずさ、折角広げたんだし食べようよ。

師匠いつも持ってる小刀…」


だが、言うが早いがスッと取り出されたのはあろうことか、かの黒刀「夜」。


ミホークが精神統一するように目を閉じると、次の瞬間ケーキは、電光石火の速さでスパンと切り株ごと真っ二つにされた。



「!?

名刀の無駄遣いするなァー!!

小刀でいいじゃん、ああっ、ホラもうベトベト…!!」


剣士として当然ともいえる、垂涎の逸品である名刀の有り様に悲鳴を上げる。



「…っ!

糞っ、

認めたかねェが…、やっぱ凄ェ切れ味だ…!」


「いやアンタもそこで感動すな…!

てか、媒体ケーキだからそりゃあね!?」


ゾロの反応に突っ込みを入れるが、尚も歯を食い縛って真面目な顔をしている。


「違ェ…っ!

見ろ、あの勢いで斬りながら、屑ひとつ散らしちゃいねェ…、

これァ入刀角度が…」


何やら薀蓄を語り出したが、興味も沸かず溜息を吐く名無しさん。



「ロロノア、貴様も剣士の端くれであれば、同じ業に挑んでみよ。」


「馬鹿っ、これ以上刀身無駄遣い剣士を増やすな…

って、ああーーー!?」


煽られて闘士に火が吐いたゾロ、三刀流で斬りかかる。


「ク…ッ、

名無しさん、俺の技ァまだまだだ、すまねェ…!」


「…いや、謝る事項が誤ってるから。」


目の前で派手に切り刻まれた為、クリームまみれになり白目を剥く。



「名無しさんにそのようなものを浴びせ、何を想像しているのだ…?

名無しさん、こ奴の正体を見ただろう、今後近づくでないぞ。」


「な…っ?!

何を言いやがるてめェ鷹の目!!


名無しさん、誤解だ信じてくれ…!!」


「…もう最悪それでもいいけどさ…。

着替え持ってきてくれないかな…。」


もはやミホークの変質的発言にも抗う気力を無くす。


「城へ戻り、俺がお前の身を清めてやろう。」


「ふざけんなてめェ!

何が清めるだ、汚すの間違いじゃねェのか、あァ?!」


「…どのようなことを想像しておるのだ?

何と卑猥な男よ。


名無しさん、こ奴には…」


「ああもう面倒臭っ!!

誕生日くらいマトモに過ごせんのかアンタらはー!!」


ついに爆発した名無しさんの声が、岸壁下の海に響き渡る。


マトモに修行がしたいという日々の叫びに加え、特別な日も―

すなわち365日フラストレーションが溜まっていく末弟子であった。


.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ