dream■short_U
□煙に巻けない煙男
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「スモーカー大佐、お誕生日おめでとうございます!
…あの、これ、私の気持ちです…っ!」
「……そうか。
悪ィな、折角だがそういうモンは受け取らねェことにしてる。」
スモーカーは、頬を染めて可愛らしいラッピングの包みを渡してくる女海兵に、軽く首を振って見せるとそれを拒絶した。
これは朝からもう何度目、いや何十度目のことであり、些かうんざりした気持ちを押し隠すのに疲弊してきている。
更に言うと、一ヶ月前のデジャヴ状態であることに溜息を押し殺してもいた。
「…っ、
失礼しました…!」
目尻に涙を溜め、くるりと身を翻して駆け去る。
度重なる毎に、理不尽に罪人になったような気分にならざるを得ない。
「何で一日中、誕生日の贈り物を断ってまわらにゃならねェんだ…」
「別に断ってまわらなくていいんじゃないですか?」
背後から聞き知る声がかかり、ピクッと僅かに上体が揺れる。
「…名無しさんか。」
振り向くと、部下であり恋人でもある女が、廊下の窓枠に半身凭れながら不機嫌そうに腕組みをして立っていた。
「去年までは普通に受け取ってたでしょ?」
恋人のスモーカー大佐と海兵女子を見かけるや否や、バレンタインのデジャヴが蘇った。
単に断るのが面倒臭かっただけであることは知っているが、つい厭味な口調になってしまう。
「今年からは、一切受け取らねェことにした。」
その理由もわかっており、それは私の存在があるから、ではあるんだけれども。
「ていうか…
バレンタインで突き返しまくった意味あんのか!
それ以前に、何度も言うけど私と付き合ってるって知れてるハズだよね!?」
わかってはいても、こうも状況が変わらないことに業を煮やし、今回もまたヒステリックな声を上げてしまった。
「俺の知ったことか。」
「ペッ。
海軍中のモテない野郎どもから袋叩きに遭えばいいのに…」
「…てめェ…」
無礼な呟きに、低く唸るような声で睨み付けられた。
勿論、スモーカー大佐は何も悪くない。
寄ってくるものは仕方が無いのだし、結果断っているのだから咎め立てする要素は皆無だ。
「そういえば、誕生日でしたね。」
ふと我に返り、八つ当たりのようなことをして心苦しくなってきた私は、何事も無かったように取り繕って咳払いをした。
「何か欲しい物とかあります?」
実を言うとここ最近ずっと、何を贈れば良いものか悩み続けていた。
どうしても趣味趣向がわからず煮詰まった結果、ストレートに当日尋ねてみることにしたのだった。
「別に何も要らねェ。」
「…あ、そう。」
あっさりとした回答に内心動揺しつつ、ガックリと失望感が襲う。
…ていうか一切受け取らないって、まさか私も含んでんじゃないだろうな。
バレンタインに続き、またも恋人イベントスルーか…と、若干寂しい気持ちになる。
では失礼します、と部下の態度に引き戻り、肩を竦めて踵を返そうとした。
「飯でいい。」
「…んえ?」
半身になったところで聞こえてきた回答に、思わず間抜けな声を出してしまった。
「今日は夜勤無ェんだろうが。」
再度半リターンしてみると、今更ながらに恋人イベントの話題に似つかわしくない厳つい表情。
しかし、どこか意を決してという雰囲気があるように見え、僅かに首を傾げる。
「…まぁ時間もあるし、そんなんで良ければ…、
けどいつも散々奢って貰ってるんで、一回私が奢ったとこでお返しになるか…」
「……お前が作れ。」
「えっ?!」
予想していなかった意外な要求に一瞬間フリーズしてしまう。
暫し沈黙して向かい合っていると、何を思ったかハッとしたように焦った表情が見えた。
「…おい、別に妙な意味じゃねェぞ、
何なら明日此処に持って来ても…」
「だっ、誰もそんなこと言ってないし!」
恐らく家に上がり込む為の口実ではないということを言っているのだろう。
こちらとてそういう勘繰りで黙っていた訳ではないと、同様に焦燥感が湧く。
…というか、仮にも恋人なら例えそうだとしても普通じゃないか?
「…狭いけど、うちで良ければ…」
おずおずと申し出ると、自分から持ちかけておきながら非常に気まずそうな顔をしているスモーカー大佐。
「……そうか。
急に悪ィな。」
―何だこの空気。
互いに気恥ずかしいほどにむず痒い気持ちのまま、「では、後ほど…ですかね。」「…あァ、まァな。」という寝呆けた挨拶を交わして別れた。
だが、寝呆けている場合ではない。
こう見えて料理は得意なのだが、好きな男を自宅に招き振る舞うというのは初事である。
その日の午後は、書類に取り掛かるフリをして、メニューと買い出しするもののリストを作成した。
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