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□心の乱れは剣の乱れ
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ここはクライガナ島、大剣豪ジュラキュール・ミホークの居城下。
常に不穏な天候の空の下、兄弟子のゾロと妹弟子の名無しさんは厳しい稽古を付けられていた。
本日は、ひたすら素振り。
フォームの影響で、武器の力を最大限に引き出すか否かが決まる。
崩すのは基礎ができてからというわけだ。
「ロロノア、貴様は振り下げる折に僅かに乱れが生じる。
常人には見えぬ程度だが、剣の道を極めたくばより精進せよ。」
ミホークは鋭い眼光と厳しい口調で言い放つ。
「クッ…!!」
ゾロは歯を食い縛るが、指導には決して反意を示すことは無い。
続けて名無しさんのもとへゆっくり歩み寄るミホーク。
「…ふむ。最高だな。」
暫し、顎を親指と人差指で擦りながらフォームを目視していたが、低い声で評を下す。
「…!!
本当?!師匠…」
兄弟子のゾロに素質も力も劣っていると自覚している名無しさんは、普段から基礎を固めることに腐心していた。
その成果が出たのかと、目を輝かせる。
「うむ。
振り下げる折に僅かに乱れる、結い上げた髪はなかなかそそるものがある。」
「てンめェェこのエロ鷹!!」
名無しさんが口を開くよりも先に、ゾロの叫び声がカットイン。
「ロロノア、見苦しきことよ…。
心の乱れは剣の乱れぞ。」
「あァ?!
てめェの脳味噌ほど乱れてねェぞこのド変態剣豪が!!」
ゾロは名無しさんの前に、ミホークから庇うように立ちはだかる。
「もう何か最近慣れてきたからいいよ、面倒だから許す…。」
げんなりとした顔で、名無しさんはひとり冷静に応酬する。
「ふむ。
ではぬしは、俺に心も身体も許すつもりがあると、そう理解して良いのだな?」
「何その理解力。
叩き斬ってしまえよ。脳味噌とともに。」
「名無しさん、安心しろ。
俺が叩き斬ってやる…!」
ゾロは過剰な怒りのあまり、震える両手で剣の柄を握り込んだ。
「フン、できるものならやってみよ。
では貴様は、名無しさんに対し心を乱すことは無いと、そう理解して良いのだな?」
ミホークは片方の口の端だけを引き上げながら、自分に有利になるような誘導尋問をする。
「…!!
ンだと…?!
クッ、卑怯な真似しやがって…
名無しさん、こんなヤツに唆されんじゃねェぞ!」
結局稽古は中断、名無しさんを巡る場外の闘いが繰り広げられ始めた。
こうして真面目に修行をしたい名無しさんのフラストレーションは、日に日に溜まっていくのだった。
「頼むから、もう乱闘の末に相打ちになってくれ…。」