☆ARS☆
□ならないよ
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椎梛「あ、雨…」
それは凄い勢いでアスファルトにシミを作って行く。
生憎傘は持ち合わせていない。
いっか。
家まではそう遠くはないし。
家に着いたらすぐお風呂に入って温かい格好をしていれば、風邪も引かずに済むでしょ。
濡れて帰ろう。
決めたら行動に移すのは早く、雨の世界に踏み込む。
すぐに制服を濡らし、スカートの色は暗く変わり果てて、ブラウスは半透明になりつつあった。
雨の日って煩いものだと思っていたけど、それは雨が傘や窓を叩く音で今の私にはその音は聞こえないから、車が水を轢く音や小学生が水溜まりを蹴飛ばしてはしゃぐ声がよく聞こえた。
──その中に入り交じるアノ人の姿や声。
もう慣れたし、別に何とも思わないけど。
必ずと言っても過言ではない程の高確率でアノ人は私の帰路に姿を現す。
私に気付いているのか否か。
それさえも定かでない。
もし気付いているならば、声をかけるタイミングを見計らっているのだろうか?
それとも私に見せ付けたいのだろうか?
後者の方が辻褄は合うな。
いや、寧ろこの際気付いていない方で考えよう。
彼是と考え込んでいたら信号を渡り損ねてしまった。
私は端から見ればずぶ濡れで信号を赤でも青でも渡らない変な人。
…誰かに見られてて明日学校で騒がれなきゃいいけど。