☆ARS☆
□一人の男
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〈椎梛side〉
椎梛「さっく…あの、前の執事はどのくらいで帰ってくるの?」
和「それが…『気分次第』とおっしゃっていましたので、具体的な日にちは私には分かり兼ねます」
・・・。
うん、成程ね。
気分で帰りたくなったら帰ってくる…と。
何ともさっくんらしい。
いや、彼が自由人なのは知ってたの。
でもそんなに気紛れな自由人だったのね。
初めて知ったわ。
椎梛「って、おーい!」
和「ハイ」
椎梛「あ、や、アナタでなく…」
無表情な筈なのに困ってるという感情が読み取れる。
困るのも無理ないわよね。
椎梛「こっちの話で…」
和「はぁ…」
なんで私はこんな可笑しくなってるの?
…何年間も傍にいた人が急にいなくなったからだよね?
椎梛「さっくぅん…」
和「……お嬢様?」
椎梛「ハイっ!?」
急に呼ばれて声裏返っちゃった。
和「私は朝食の用意に取り掛かります故、そちらにあるお洋服をお召しになって此方までいらっしゃって下さいませ」
椎梛「あ、ハイ…」
和「朝食のリクエスト等はございますか?」
椎梛「い、いえ、特に…」
和「畏まりました。では、失礼します」
戸の閉まる乾いた音の後には時計の音のみ部屋に響く。
椎梛「さっくんと違い過ぎて混乱してるわ」
真意を呟いてみたものの、それで落ち着ける訳もなく。
いや、本来ならばコレが執事として在るべき姿なのかも知れない。
きっと今までが特別だっただけ。
…そうよ。
だって普通執事を渾名で呼ばないもん。
普通お嬢様と執事でタメ口なんか使わないもん。
例を挙げれば挙げる程そう思うより他ない。
取り敢えず…
椎梛「お腹空いた!」
お腹は嘘をつけないからね(笑)