居候する事になりました

□三日目
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白い天井と白い壁

開かれた窓から差し込む日差しに、微風がカーテンを揺らす

繋がれた点滴チューブが細い腕に繋がれ、彼女の命が消える其の時まで外される事はない

けれど、蝕む病の影がじわりじわりと近付いてきていた


「…もう直ぐ……かしらね」


ターミナルケア専門の病室で彼女は涙を浮かばせながら笑っている

そんな彼女の側に立ち、私は制帽を深く被り歯を食い縛った

何故なら愛する人から引き離してしまった張本人なのだから…


「ごめんなさい…私が……もう少し……遅ければ……」


きつく握り締めた手が震える

どんなに我慢していても絶え間なく涙が溢れて止まらず、青い制服を濡らし染みを造った


「謝らないで下さい…
貴女は…貴女の役目を果たしただけです

どうか悔やまないで下さい」


冷えきった指が私の手に触れて安心させるように包んだ手が白い空間の中へ融け込み、消えていった



「私は……それでも」



最善を尽くせたと言えるのでしょうか?



果たして正義だと言えるのでしょうか?



立ち尽くす私に向かって見慣れた蝋燭のポケモンが勢いよく懐に飛び込んで来た



「っ!!??」



ビクッと身体が反応して目が覚めた

何故だろう、目が開いているのに黒しか見えない

おまけに左肩と後頭部に何か当たってるし、足もなんか固定されてる。
しかも規則正しい寝息が上から聞こえてきてて…


「……」


ゆっくりとその正体を確認する為に顔を上げれば、見たことのある寝顔が其処にあった


ああ、なんだ。ノボリさんか……



ふっと何処か気が抜けて、もう一度寝ようと瞼を閉じた



……って現実から逃げるな自分!

よくよく思い出せ、私は何処まで記憶が残ってる!?

確か帰宅して、ノボリさんとクダリさんが入浴している間にヒトモシと会話していて、それからそれから…


夢を見た



とすると御風呂入りそびれてるのね私……

時間を確認したいけれどノボリさんがっちりホールドしてるから抜け出せないし、無理に抜け出したら起こしてしまうだろうし…


どうしよう…


此って脱出ゲームの超難問だよねきっと。そうに違いない

ノボリさんが起きるまで待つという手もあるけれど

出来れば入浴してから出社したい…

勿論、残り湯で充分です。序でに洗って準備万端にしておきたいです
更に欲を言えば朝食の準備もしておきたいです。はい


もう一度、閉じた目を開いてノボリさんを見上げようとすると、頭を撫でられている感触に身体が硬直した

恐る恐る顔を上げると、眠た眼のノボリさんが小さく笑って


「おはようございます、碧様」


朝の挨拶をしてきたので、私も「おはようございます、ノボリさん」と苦笑いを浮かべて挨拶をして、お互い同じようにベッドから抜け出した

時刻は4時50分を指していて少し寝すぎたかもしれない

ノボリさんが早々にキッチンに立って料理を作る準備を始めた為、私はお風呂に入る準備に入った

けれど、とっても気になる疑問が残っていて着替えを手にしたまま足を止めた


「えっと…ノボリさん」

「何で御座いましょう?」

「何故ノボリさんは私をホールドしながら寝ていたんですか?」


ピタリと野菜を切る音が止まって、私と視線が交わる
そしてノボリさんは自分の右目、目尻を指差して「此処です」と言う

言われるがまま、自分の目尻に触れてみると乾燥した白く細かい粉が手について……



「なんか……すみません」

「いえ、腫れていないようで安心しました」



再び包丁が野菜を刻んでいく音が鳴る

その音を耳にしながら脱衣場に入り、ドアに凭れた


「……っ」


うわーーーー!!

寝ながら泣いてるって恥ずかし過ぎるだろ私!!


確かに夢の中で泣いてたけど…けどさ!!



喉元まで暑い空気が上がってくるのを溜め息として吐き出すけれど
顔に集中する熱は高くなるばかり

恥ずかしい場面ばかりノボリさんに見られてる気がして、私のプライドは摩り切れきってる…多分。


「さっさと頭を冷やす、うん其が良い」


思い返すだけで恥ずかしい


バサバサと服を脱いでぬるま湯だろうと期待しながら風呂場の戸を開けた


「……何処まで抜かりが無いんでしょうね……」


眼前にはぬるま湯には程遠く、まるで入れたての湯気が立つ浴槽が待っていて、呆然と立ち尽くした



[抜かりの無い配慮]
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