いつも君の側で

□目覚めと出逢い
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石畳の城壁が聳え立ち、その中にワイワイと賑わう町の人々
城門を潜り抜ける前に布のフードを鼻先まで深くかぶり、人が怖がる要因を隠した
最初は全く分からなかったが、湖や水溜りに映る自分のソレは他の人と大きく違っていた
人々は口を揃えてこう言う「魔族の目だ」と
血のように紅い目は人目に触れない方が良いのかもしれない。そう感じて自分から隠すようになった
ロディとゼペットさんは、最初から受け入れてくれたけど皆が皆そうではない、だからフードを被っている。
いつの間にか黒かった髪の毛も真っ白になって余計に人目に触れたくなくなっていた


「まずは宿屋でチェックインしとかないとね」


名無しさんがフードを被ったのを確認したロディは名無しさんの手を繋ぎ、道を誘導する
目に映るのは殆ど石造りの地面だけ
名無しさんが人にぶつからないよう人の居ない方へ居ない方へと進み宿屋らしい一軒家に向かう


「地震で遺跡が崩れるなんて大惨事だ」

「急いでエマ博士に伝えないと」


ピタリと歩を止める
地震というのは…まさか私達の責任だろうか?

ロディの手に少し、力が籠る
彼もそう思っているのだろう
何せ優しいから
責任感が人一倍強いから


「…ロディ」


そっと握っている手にもう片方の手を添える


「ごめん名無しさん、僕は」

「分かってる。だから荷物とチェックインは任せて、宿屋は直ぐだから」


ニコリと微笑みを向けると、小さくまた「ごめん」と返事が返ってきた
そんな事無いよ。と横に首を振ってロディの荷物を受け取る


「部屋で待ってるから」

「分かった。それじゃ後で」


するりと手を離し、走っていく彼を見送り宿屋の中へと入る
木造の壁に、木造の階段
ゆっくりと登った先にカウンター席があった
其処で客の相手をするのがマスターで、メニューを頼めば作ってくれる


「すみません。二人分チェックインをしたいんですが…」


キュッキュッと何かを磨いている音が止まり「あらぁ」と申し訳なさそうに続けた


「ごめんなさいねぇ、空いてあるの一部屋なの。祭りが近くて…」

「そうなんですか…それじゃ一部屋お願いします」


祭りが近いのなら部屋が一つでも空いているのが奇跡に近い
サーフ村から此処まで野宿を三日したのだから、ゆっくりしたい気持ちもある

そう思い、マスターに頭を軽く下げた


「あら、お行儀が良いわね二階の一番奥の部屋よ」


軽い口調でマスターはそう言うと、再び硝子を磨くような音が繰り返される
ロディの荷物を抱え直し、階段を見付けてゆっくりと登っていると
上から誰かが降りてくる音がして足を止め左端に寄る

「…ったークソっアイツ何処に行ったんだ?」


ガリガリと頭を掻きながら男性が隣を降りていく
連れ添いの人が行方不明なのだろうか?


「あっ!其処のお前」


足音が止まり、ガシリと肩を掴まれた
もしかしなくてもお前とは私の事だろうか?「はい、なんでしょう?」と聞くと面倒臭そうに、またもガリガリ頭を掻いて


「言葉を話せる鼠を見付けたら一番奥から二番目の部屋に連れてきてくれ。俺は外で探してみる」


ぶっきらぼうにそう言い残して出ていく
段差のお陰で、その男性の後ろ姿が見えた

緑色のリボンで黄土色の長髪を束ねた人…か

っというより、言葉を話せる鼠とは一体どんな鼠なんだろう?


首を傾げて、一番奥の部屋に向かい木造のドアを開け、荷物を置いてフードを脱いだ
二階で、誰も居ない
見られる心配さえ無ければ視界を遮る物は不要
そう思っていた


「わー綺麗な銀髪!オイラ始めて見た」

「っ!!??」


慌ててフードを被り、部屋の場所を確認する。間違い無く借りた部屋で廊下に誰もいない
室内に戻り声のした方を向いた


「ゴメンね、オイラ驚かすつもりは無かったんだ」


申し訳なさそうにヒョコヒョコ歩く音が足元に近付き、長い耳を垂らして見上げてくる青い鼠


「鼠…さん?」


しゃがんで彼を観察する
何処からどう見ても鼠


「鼠じゃないぞ、オイラはハンペンって言うんだ」


忙しそうに耳と尻尾がゆらゆらと揺れている
なんとなく触りたくなって恐る恐る触れてみる
柔らかい獣特有の毛並に何処と無く癒される
ハンペンも悪い気はしないのかユッタリと尾を揺らしている


「…かわいいなぁ」


ぼんやりと呟いて、彼を手に乗せてベッドに腰掛ける
膝の上に乗ったハンペンは私を見上げてポカンと口を開けた

どうしたんだろうと見ていると小さい口で「兎みたいだね」という返事

もしかしなくても私の目の事だろう
だけどハンペンの様子を見る限り怖がっていない
焦っていた自分が拍子抜けしてフッと気が抜ける


「なんだぁ、じゃフード被ってる意味無いか」


スルリとフードを退けると「えへへ」と笑うハンペン
どうしよう、あの男性に返すのが嫌だ…


「私は名無しさんって言うんだ」

「名無しさんかぁ、良い名前だね。オイラなんて食べ物って言われたよ」


しょんぼりと耳を垂らせて腕組をすると、急に耳が立った
慌てたように廊下へ視線を向けたと思うと「名無しさん!ちょっとゴメン」
バサリとフードを被せられ、フードの中にもぞもぞと入っていく
それと粗同時にコンコンとドアがノックされキィと開く


「ゴメン名無しさん、今日ちょっと用事が出来ちゃった」


申し訳なさそうに、頭に手を置いて入ってきたのはロディだ
そのロディの後ろから顔を出しているのは、あの緑色のリボンでお洒落をしている男性である


「あ、お前さっきの」


フードのせいで顔は見えないが、挨拶程度に軽く手をあげる
しかし、彼の視線は私の服装に釘付けで「はっはーん」と悪どい顔に変化する
ツカツカと断り無く入ってくるなや否や私のフードから垂れ下がっている青いソレを摘まみ、勢いよく引き上げる


「うわあっ!!??」

「勝負は脚の長さで決まったなハンペン」


ブラーンと逆さまになったハンペンは最初はバタバタと暴れていたが観念したように「オイラの負けだよー」と呟いた


「見つかっちゃったねハンペン。もう少し話がしたかったんだけど…」

「名無しさん〜ごめんね〜また来るよ〜」


宙吊りのまま私に手を上げたハンペンに「全く、見ない間に仲良くなりやがって」と愚痴を溢した男性は私に視線を向けた


「すまねぇな、お前目を患ってるんだってな。
だがリリティアの棺にロディと嬢ちゃんと行く事になった
文句はロディに言ってくれよ?」


…。


チラリとロディに視線を寄越すと小さく謝るように手を立ててる
文句はロディに。いや違う意味で言いたいが…
確かに、二人だけならフード無しで戦えるが複数だとフード被りっぱなしで足手まといだ


「そう…か、分かった。私は待ってるね
帰ってきたら成果を教えてよ?」


私は足手まといになりたくない

だから待つ他無いんだ


「ごめんね」


そうロディが謝る。私は小さく首を横に振って「大丈夫だよ」と伝えた


「あ、ハンペン。内緒だからね?」


やっと宙吊りを解放されたハンペンは彼の肩の上に移動していた
ハンペンはグッと親指を起てて「友達だもんな!」と笑った


「「内緒?」」


私達の会話に二人は首を軽く傾げたが、私は笑って手を振った


「早く行かないと、お嬢さん待ってるし帰りが遅くなるよ」


本当は寂しい。だけど我儘は言えない
ロディは「それもそうだね」と苦笑して、私の頭に手を置いた


「なるべく早く帰って来るよ。じゃザック、行こう」

「おう、帰って来たら内緒話の内容聞かせろよな」


隣の部屋だしなっと笑い、部屋から出ていった
閉まったドアを見つめてフードを脱ぐ


この容姿を、受け入れられたら一緒に行けたのに


はぁ…と溜息を溢して自分のARMを取り出す
ロディの使っているARMより重量は軽く、早射ち用に造られた
ゼペットさんが私専用に造ってくれたARM
何時もロディの傍から離れないから
ロディの扱うARMはシンクロするのに少々時間が掛かるから
私がロディを守る為に奮闘していたのを知っているから


「今のままじゃ…だめ…だよね」


誰かの為に必死になるロディを知っているから
自分を犠牲にする事さえ厭(いと)わない彼を知っているから
側に居よう、恩返しをしよう

何より私自身が彼の傍に居たいって思う

だけど今迄自分は彼を縛っていたのかもしれない
ロディは其れを笑って受け止めてくれて居た

せめて自分のコンプレックスを克服さえ出来たら
一緒に町の中を歩き回れるのに


「ゼペットさん…」


私は無力です…


ARMを静かに握りしめた
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