will ウィル・A・スペンサー

□星に願いを。
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「もうすぐ、君の誕生日だね。」



受話器の向こう側から聞こえてくる穏やかな声に、コクリと頷いた。
遠距離恋愛中の寂しさを埋めてくれるように声を聞かせてくれる、彼からの電話を待ちわびる毎日。



そして、あと数日後に迎える自分の誕生日。
その事をちゃんと覚えててくれている彼の優しさに嬉しくて頬を緩ませた。



「何か、欲しい物はある?」



誕生日プレゼントに何が欲しいかと聞かれて、私は思考を巡らせた。


『……いえ、何も……。ウィルが、覚えててくれただけで嬉しいです』


そう言葉を返したなら、受話器越しに聞こえてくる声色が変わった。


「……君の望むモノを贈りたいんだ。だから、教えて?」


『……、秘密です』



本当は、即答出来る。
私が欲しいモノ……。



「俺には……叶えられないモノ?」



ウィル王子の声がトーンダウンしたのを感じた。


『……誰にも叶えられませんよ』


明るく言ったつもりが、ツンと痛む鼻先に思わず噛み締めた唇。


「……教えてくれないか?」



そっと閉じた瞼の裏に浮かぶウィル王子の、困った顔。



『……ほぅ……魔法が欲しい……』

「魔法……?」


ベッドの上で膝を抱えながら、ギュッと携帯を握る手に力が入ってしまう。



『ウィルに……、いつでも、すぐに逢える魔法が使えたらな……って』

「……っ、」


【好き】って気持ちが募る程、会いたくて、傍にいたくて、抱きしめて欲しい……ってワガママも募っていく。



『……星にね、家の窓から見える星に、毎日願ってるの……。ウィルに早く会えますようにって……。願いが叶う魔法を使えるようにして下さい……って。』


バカみたいだよね?って笑ってみせた。
涙が溢れてきてしまうけど……。


ウィル王子も同じ気持ちで居てくれたなら……とも願っていた。



「……すまない、また電話する」



そう言い残して、プツンと切れた電話。


きっと、呆れられちゃったんだ……。
幼稚な私の考えに、ウィル王子は……。



『会いたいのは……私だけなのかな?』



会いたくて、寂しくて、眠れない夜を過ごしてるのは……私だけ?


『ウィル……好きだよ……』



携帯を握り締めたまま、泣き疲れていつの間にか眠る夜も今に始まった事じゃない……。




*・゚・*:.。.*.。.:*・゚・*:.。.*.。.:





朝の光が射し込む部屋に、重たい瞼をゆっくりと開いた瞬間。


ピンポーン。


…………?



覚めきらない思考のまま、訪問を知らせるチャイム音が聞こえた気がして、玄関へと向かった。


『……はい?』


「……俺。」


訪問者の姿を確かめようと覗き穴から見えたその影に思わず息を呑んだ。




ーーー。



『ウィル……っ?!』


目の前に現れた彼の姿に、その名前を口にしたその瞬間。


私の身体は大好きな人の香りに包み込まれていた。


『……これって、夢?』

「夢なんかじゃ……ない。」

『え……、だって、ウィルが……ここにいる筈な……』


い、と言う言葉はウィル王子の唇に塞がれてしまった。


「君が……あんな可愛い事、言うから……」


可愛い事……?


『えっと……?』


「魔法を使えるようになりたいのは……俺の方だ。君の望みを全て叶えられるような魔法使いになりたい……。」




ウィル王子は、電話を切った後、車を飛ばしてシャルルまで来たのだと言った。


『ウィル……』

「ねぇ、このままさらってもいい?……答えはYESしか聞くつもりないけど」




私のワガママに、呆れる事なんてしないと。
こんなのはワガママの内に入らないと。


だけど、ワガママを言うのはウィル王子の前だけにして欲しいと、優しく笑う彼は軽々と私の身体を抱き上げ言葉通りに浚って行った。






「君の願いを叶えるのは、星でもない。……俺だけだから、忘れないで。君のバースデーを一番に祝うのも、ね。」





END
2014.06.16
 

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