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□進む君と止まった僕の
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「佐助、晩飯出来たぞ。」
最近伊達ちゃんは料理にこっているらしく、色々な料理を作ってくれる。
料理といっても家庭料理程度だけど、凄く美味しい。今まで自分が作ってきたものより数倍美味しい。惚れた弱みかもしれないが。
「伊達ちゃん、料理作るの好きなの?そういうの今までイメージなかったんだけどさ。」
「Ahー…好きと言われるとそうでもないが、将来的に出来た方が良いだろ」
あぁそうかなんて納得しようとしたけれど、俺にはなかなか出来ないでいた。
将来
それが俺を苦しませる種
俺は伊達ちゃんが好きで、伊達ちゃんも俺が好き。
それはわかる。
だけど、伊達ちゃんの将来の夢は、俺とは違う。
高校を卒業し、このルームシェアをする必要がなくなり、大人になったのならどうなるのか。
結婚とか、するんだろうか。
俺も伊達ちゃんもそっちの気は最初はなかったものの、一緒に過ごすうちに、友情ではなく、この人が好きなんだと強く思うようになっていった。
それは伊達ちゃんも同じだとわかった。
でも自分が同性愛者になったかどうかなんてわからない。
伊達ちゃんだから好きなのか、男もいける口なのか…
もし伊達ちゃんが俺だから好きなのだとしたら、俺がいなくなった時、他の女性と結婚してもおかしくない。
結婚して子どもが産まれて…それが人間としての普通。
俺たちは結婚できないし、好きなんて感情は不安定なもの。どう考えても、どんなに好きでも、伊達ちゃんと俺は一緒にはなれない。
それが辛くて、悲しくて、苦しくて。
「…ねぇ、伊達ちゃん」
「ん、何だ」
「これ以上料理上手くならないでね。もっとカッコ良くならないで…それから」
「何言ってんだお前、急にどうした?」
隣でパスタを食べていた伊達ちゃんを抱きしめた。
「ずっと、俺から…離れないでね……」
「…何を考えたか知らねぇが、俺はお前から離れることはしねぇよ。」
「…………ありがとね」
喉まで出かかっている言葉を飲み込み、必死に絞り出したありがとう。
優しいのはわかってるけど、今は慰めの言葉じゃなくて、確たる安心が欲しかった。
それを言う勇気はまだ俺にはなかった。
伊達ちゃんの将来を奪うことはしたくない。
緩んでしまった涙腺をどうにかしたくて目を擦ったら、伊達ちゃんが瞼にキスしてくれた。
「ほら、食べたんなら食器洗っとけよ?明日の試験勉強しねぇと。」
ほら、また君は未来へ進もうとする。
俺は君の進む背中を見つめることしかできないんだ。
食器を洗う華奢な伊達ちゃんの背中は、ひと回り大きい自分よりずっと大きく見えた。
進む君と止まった僕の
縮まらない隙を何で埋めよう?