novel01
□虚圏風景 T.
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「彼女と彼女と彼女のウワサ」
ロリ+メノリ
パリーン、と、陶器の砕ける音。
哀れ、八つ当たりの犠牲者となったティーカップは、無惨に砕け散ってしまっていた。
「っなんなのよ、あの女ッ!」
先刻、その「あの女の世話役」とすれ違いざまに吐き捨てたセリフを、もっと憎々しげに放ちながら、部屋の奥のソファーに勢いよく座り込んだ彼女。
そんな彼女、ロリ・アイヴァーンを怯えた表情で見遣る、メノリ・マリア。
「――許せない。人間のクセに。死神の、仲間のクセに…」
独り言。
「藍染様…一体どういうつもりなの…?」
独り言。
「あんな女。何なのよ…ウルキオラに任せるほど、価値があるの?」
メノリは、テーブルの横にひっそりと立った。
ソファーに座ったロリとの距離は、5メートルほど。
とばっちりを恐れて、近づきたくはなかったのだ。
それでも、不機嫌な相棒を放っておけない。
「――利用するつもりなのかしら…でも、あんな女に、どんな能力が」
彼女達の主人、藍染惣右介が、あの"4番"にこの世界に連れてくるように命じた、"ただの人間の少女"。
ロリは、あの人間の女の顔を思い浮かべた。
悲しげな、憂いを滲ませた目。
それでいて、強い意志の力を放つ、あの目。
――気に、食わない。
「…あの女、いつか、グチャグチャにしてやるわ」
ロリは、毒々しい笑みを浮かべる。
そして、メノリの方を向いた。
「ねぇメノリ、」
ビク、と反応するメノリ。
「…なに?ロリ…」
恐る恐る、相棒の呼びかけに応える。
「あの女。アンタどう思う?…あの、女」
あの女、あの女と繰り返すロリの唇を見ながら、メノリは返答に迷っていた。
確かに、自分もあの人間の少女は憎いと思う。
我らが君主、藍染様のお側に、卑しくも…人間ごときが。
しかし、疎ましいと思ったのは事実だが、ロリ程に憎悪を露にするまで、感情は激しいものではなかった。
「わ、私は…」
「アンタは?」
「い、嫌。あんな女…」
口が、乾いていた。
だが、返答の内容に、嘘はなかった。
「よく、分からないけど…どんなヤツなのか、まだ分からないけど…
私も、嫌だ。
あの女は、いつか、目障りな…もっと目障りなモノになる」
自分の感情をそのまま、だがロリが望むように形を変え、口から溢す。
ロリは、フン、と鼻を鳴らしたが、どこか満足げだった。
「そうね、メノリ。
――確かに、もっと目障りなモノになるに決まってるわ」
「う、うん」
頷き、ロリの左目の穴を見つめる。
相棒は、機嫌を取り戻しつつあるようだ。
「いつか、絶対、グチャグチャ、そうよ、グチャグチャにしてやるんだから」
愉しそうな彼女。
頷く彼女。
「あの女が、"どんなオモチャ"なのか調べなきゃ。
――面白いわ、楽しみ」
「うん」
噂される、彼女。
ロリは、脚を組み変えた。
まだ、毒々しい笑みを湛えたまま。
彼女の下のソファーのスプリングが、鈍い音をたてて軋んだ悲鳴を上げた。
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