星の少女

□7.平和を知らない子供
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日本という国がある。
武力を持たず、ユニオンの傘下にて平和な日常を送っているという。

ミラは200年の眠りの中でこの国を見て、新たなミッションの為に今まさに来ているわけだが未だに違和感を覚えずにいられなかった。

「歪んだ世界の中の平和。不自由な檻の中で外敵から守られても、それは紛い物でしかない」

ミラは世界の現状を知らず平和を唱う彼等を認められなかった。
街を歩けば平和な顔をした人間があちこちで談笑している。
何も知らない、愚かな羊。
ミラの目には彼等が木偶に見えた。
感情の無い目がすれ違う人々を否定的に映す。

「……」

人混みに慣れていないミラは少し具合が悪くなり、足早にCBに用意されたマンションの一室に向かった。




―――――――――――――――――――




生活必需品だけが揃った殺伐とした部屋。
最低限の物以外はほとんどない。
しかし、刹那からは柔らかな桃色のマグカップ、ロックオンからは水玉のカーテン、アレルヤからはテディベア、ティエリアからは沢山の洋服を貰ったため、それらは殺伐とした部屋によく映えた。

「……一人暮らしするには、見た目が幼すぎますかね」

クリスティナがくれた全身サイズの鏡に映る自分の姿に首を傾げる。
「実質」13歳のミラだが、見た目年齢は完全に7〜8歳だ。
こんな幼い子供が一人暮らしをしていれば、周りも怪しんでしまう。

「両親は共働きということにしますか」

ハロンを抱えてベッドに座る。
早く宇宙に帰りたいものだ。
地上にいた時間よりも、宇宙にいた時間の方が遥かに永いから。

「200年もいたから……身体が宇宙に適応しすぎたんですね」

ハロンの滑らかな曲線をなぞりながら、天井越しに空を仰ぐ。

私は何時からあそこにいたのだろうか。
200年前、私は何故「目覚め」、「眠った」のだろうか。
考えたところで答えが出るわけではない。
まだ思い出すことはできないのだから。

「『彼』は私のことを知っているはずですが…何故教えてくれないのでしょう」

トレミーに加わる直前、私を目覚めさせた彼。
久々に人間を見たと思ったが、彼はミラが知っている「人間」とはまるで違って見えた。
なんというか、人間よりも完成されているような感じがした。

余計なものを削ぎ落としたような、

そう、まるで心が無いかのような。

しかし、会ったこともないのに彼は味方だとわかった。
きっと彼もミラと同じ、200年前にイオリア・シュヘンベルグに用意された存在なのだろう。
ミラを様付けで呼び、姫を守る騎士の如く服従していたところを見ると、彼はミラの付き人のような役割かもしれない。

「彼の名は…」

…やはり思い出せない。
あまりに多くの記憶が抜け落ちている。
もしかすると、200年前眠りにつく前に記憶を改竄されたのかもしれない。

「ミラ、ダイジョウブ??ダイジョウブ??」

ハロンが心配そうにこちらを見上げてくる。
ミラはそんなハロンを優しく撫でながら窓から空を見上げる。
徐々に空が色を失っていく。
明日は満月のはずだ。




 
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