星の少女
□8.金色の君と紅の少女
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「アトリアか、良い名前だ」
差し出されたグラハムの大きな手をミラの小さな手が握り返した。
良い名とは言われたものの、その場凌ぎの名前を誉めらても何と返せば良いのかわからない。
困っているとアレハンドロが頭から手を話した。
「いけない、話し相手を待たせているんだったよ。アトリア、あまり離れたらダメだぞ」
そう言った後、ミラにしか聞こえない声で「後は任せました」と耳打ちした。
「わかりました、アレハンドロ様」
両方の台詞に返事をする。
アレハンドロは軽く手を振りながら社交の場に溶け込んでいった。
残されたグラハムとミラは再び見つめ合った。
「グラハムさんは先程の新型のテストパイロットなんですよね」
グラハムは頷いた。
金の髪がさらりと揺れる。
「いかにも。なんだ、デモンストレーションまで観てくれたのか。MSに詳しい君ならば何かわかったことなどあるかい」
口元に笑みをたたえ、優しく聞いてきた。
正直こんな子供に何がわかるのだろうかと半信半疑だったため、試すのに聞いているのだ。
…きっと何もわかるまい。
「フラッグを空中で変形させた技術は凄いです。でもあの機体、パイロットへの負担がかなり大きいようなのでやり過ぎると身体が保ちませんよ」
つらつらと意見を述べるミラにグラハムは目を見開いた。
たった1度見ただけでそこまでわかるものなのか…??
「アトリア、君は一体何者だ??正直、君のような少女が1度の見学でそこまで見抜けるとは思えない」
グラハムは目の前の7、8歳程の少女に魅せられていた。
ユニオンの優秀な技術者、それ以上の観察力がある。
将来ユニオンに入ってもらえば大きな力となる。
「流石はコーナー氏の親族…さぞ名のある技術者の元にいたのだろう」
何やら勝手に思い込んでいるようだが、その方がありがたい。
グラハムは完全にミラに魅せられていた。
「こらグラハム、犯罪に手を染めるつもりじゃないよね」
グラハムの後ろから長髪をポニーテールに纏めた背の高い男が現れた。
眼鏡の奥には優しい目が細められている。
「安心しろ、私にそのような趣向はない」
長身に向けられた疑いの眼差しを避けた。
どうやらグラハムとは親しい間柄らしい。
「紹介しよう、ユニオンMSWAD技術顧問、ビリー・カタギリだ」
ビリーと呼ばれた男が優しく微笑んで手を差し出してきた。
「はじめまして。えーと…」
「アトリア・コーナー、アレハンドロ・コーナー様の親戚です」
自己紹介と共に手を握り返す。
ビリーはアレハンドロ・コーナーの名に目を丸くした。
「へぇ、それでこのパーティにも参加できたわけだね。でも君にはちょっと早かったんじゃないかい??」
ビリーはミラの頭脳を知らないため、このパーティに来るにはまだ幼すぎると思っていた。
それが当たり前の意見なのだ。
「カタギリ、彼女は素晴らしい洞察力を持っている。たった一目で私専用のフラッグが多大なGを処理しきれないことを見抜いた。そこらの技術者より優れている」
ビリーは耳を疑った。
目の前の少女が一目でフラッグの性能を見抜いてしまったと言うのか。
「右足首のシリンダーが緩んでいました。変形時のGの影響でしょうけど外れると危険です、ボルトを増やした方がいいですよ」
その言葉にドキリとした。
というのも、あの機体はやはり右足首のシリンダーが緩かったために1度造り直したのだ。
しかし変形によるGで再び緩んでしまった。
それを指摘されるとは。
「アトリアだっけ??君凄いね。右足首には僕達も苦労したんだ。よかったら他にも…」
「…すみません、電話が……1度会場を出てもいいですか」
ビリーの話を途中で遮った。
携帯端末に連絡が来ていたからだ。
相手は―――アレハンドロ。
「ああ、構わないよ」
ビリーもグラハムも快くOKしてくれた。