星の少女

□13.彼等の名を知らず
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タクラマカン砂漠からミサイルの雨が消えた。
アザゼルを除く4機のガンダムは久々に見える空に、磨り減った意識が少しだけ覚醒するのを感じた。

『プランX…離脱する』

ティエリアの声がスピーカー越しにミラにも届いた。
散々暴れたミラは漸く冷静を取り戻した。
ルナの言葉が正しいかはまだわからない。
実際、ミラにはイオリアと過ごした日々の記憶がある。
記憶はそこから飛び、白い部屋―――手術室で大人に囲まれ、祝福を受ける自分がそこにいる。
しかし、ミラは忘れなかった。
イオリアが優しく手を握ってくれたことを。
あの温もりは、作り物なんかじゃない。

「私は私…そう、私はミラ・エスペランザ…」

離脱ルートに入り、ミラは独り心地に呟く。

「真実は私自身が突き止める…今は、もうすぐ始まるガンダムの鹵獲を食い止める」

今、この一帯から全ての爆撃が消えた。
つまり『同時に全てのガンダムを鹵獲』しようとしているのだ。
それほどの戦力を残しているのは予想の域を越えていた。
だが、鹵獲されるわけにはいかない。
仲間を救わなければ…

「テッキセッキン、テッキセッキン」

ハロンが慌ただしく合成音声を響かせる。
新たに開いたウィンドウに映っていたのは、鈍重とも言える機体。
ティエレン高機動型。
そう、いつか後を追ってきた人革連のエースが搭乗する機体だった。

「セルゲイ・スミルノフ…!!」

ロシアの荒熊。
彼が直々にアザゼルを鹵獲しに来たのだ。

『重力ブロックの件では世話になったな。だが演習で多くの仲間を奪った貴様を逃がすわけにはいかない!!』

怒号とも言える男の声がスピーカーを震わす。
一切スピードを落とさずアザゼルに向かって一直線に翔んでくる。

「旋回を…っ」

操縦桿を捻るが、度重なった爆撃とルナの告白による疲弊が酷く、いつものようなキレがない。
もたつくように動くアザゼルに、容赦なくセルゲイは突っ込んできた。

「うああ!!」

激しく機体が揺れる。
全身をコックピットのあちこちにぶつけ、その痛みで意識が飛びそうになる。
しかし気絶している暇はない。
ビームサーベルを握り、応戦しようとする。

『動きに疲れが出ているぞ、紅蓮の槍』

一瞬の隙を突かれ、滑空砲でサーベルを弾き飛ばされる。

『十五時間、あの物量をよく耐えた。それは敵ながら見事だと思う』

アザゼルを砂上に押し付けたまま、滑空砲を今度は機体に向ける。

『それでいて応戦しようと言うその精神の強さも賞賛に値する』

カチリ、とトリガーが引かれる。
アザゼルがビクンと小さく跳ねた。
滑空砲が発射される度に、アザゼルは火花と煙を上げながら機体を跳ねさせる。

『だから極限まで磨り減らしてから鹵獲させてもらう』

セルゲイの声がアザゼルのコックピットに響くが、ミラの耳には届いていなかった。
ミラの意識は、違うところをさ迷っていた。




 
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