奏音―カノン―
□奏音―カノン― G
1ページ/5ページ
穏やかさを装った空気は
危ういバランスで儚いタマゴを守るように
心の奥をひた隠す
「昨夜はごめん・・・俺、飲み過ぎて全然覚えてなくて・・・」
「あ、え、うん。僕も、結構飲んじゃってたみたいで・・・気付いたら公園に帰って来てた」
嘘から嘘への危うい綱渡り
確かめる術もないまま、色々なものを置き去りにして新たな嘘を生んでいく
心に燻る消えない熱は、均衡を破らないために二人に薄く脆い仮面を被せた
祝杯をあげたあの夜から、表面上は変わったことは特にない。
それまでと変わらず、朝食を一緒に食べ、夜は時間とタイミングが合えば少し会話をしておやすみを言う。
変わらない生活を続けながら、お互いに心を閉じ込め距離をとった。
薄くて脆い仮面が割れてしまわないように―――・・・
『もう逢えることはないんだ』
そう笑ったソンミンが浮かぶ。
なのに未だににあんな顔をするということは、きっと心の何処かで待ち続けているのだろう
これまでも特別近しいわけではなかったけれど、本能なのか意識しているのか、ソンミンは自分を近付けないための壁を作っている
背を向けるのではなく、こちらを見ながら壁を作るから
キュヒョンは何も出来ずに佇むしかない。
ソンミンの“大切な人”の存在の大きさを、キュヒョンは胸の痛みと共に感じていた。
ふとした瞬間に
肌を這うキュヒョンの舌と唇の感触が甦り、ソンミンの心と身体を小さく震わせた。
キュヒョンはいずれ帰る
韓国へ
元恋人の元へ
この場所から、自分から居なくなる
これ以上近付きたくない
ソンミンは不安定な心が動き出してしまわないように
自分を戒めるため、何度も空を仰ぎ深呼吸を繰り返した。
.