奏音―カノン―

□奏音―カノン― F
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太陽が高く昇ったこの時間は、一瞬冷えた空気を忘れるくらいに柔らかい日射しがこの公園にも降り注ぐ。

目の前を流れる河に光が反射して、鱗みたいにキラキラと輝いていた。





『来るまで待ってるから』

昨日のキュヒョンの声が耳の中に残る。




『行かない』

そう伝えたはずだ

ハッキリ言葉にしてそう伝えたのだから、どれだけ待とうがもう自分の責任はない

行くつもりもなければ、行きたくもない


なのに、何故こんなに心の中がざわついて落ち着かないのだろう・・・



ソンミンは自分を鎮めるようにシャツの胸元を強く掴んだ。












∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ソンミンさん、ただいま」

背後から聞こえたその声に驚いてソンミンが振り向くと、何事もなかったようにキュヒョンが立っていた。


「ワイナリーへ行ってたから美味しそうなワイン買って来たんだ。そこが凄いワイナリーで、」


数日前となんら変わらぬ様子で話し続けるキュヒョンに、ソンミンは分かりやすく表情を歪め顔を背けた。



「これ、一緒に飲もうと思って。あ、この前置いてったワインも飲んだ?

・・・・ソンミンさん・・?」



「僕はいりません。この前のも飲んでないからお返しします」



最初の頃と同じように自分のことを拒絶するソンミンの態度と口調に、キュヒョンは言葉に詰まる。





「いや、あれはあげたものだし・・・あれも美味しいはずだか・・」


「本当に、何もいりません。だから、僕のことは放っておいて貰えませんか」




まるで振り出しに戻ったようだ

少しずつ近付いていたと思ったのに・・




とりつく島もないソンミンを見つめて佇んでいたキュヒョンは、ひとつ小さく息を吐き出すと静かに口を開いた。





「仕事の話がうまくまとまりそうなんだ。成功に一歩近付いた。一緒に前祝いしてくれない?

ソンミンさんが祝ってくれたら嬉しい」


「・・・・・」


「俺、明日休みなんだ。だから部屋で飲もう。待ってる。来なくてもずっと。来るまでずっと待ってるから」


行かない、そう自分の存在を拒否する背中に向かってそう言い残す。




「あ、そうだ。これ。好きそうだったから」


何かを思い出すとソンミンの左手をとり、手のひらにキュッとそれを握らせると、キュヒョンは足早に去って行った。



ソンミンが手のひらをそっと開く。






絵の具・・・・?



蒼い、絵の具だ・・・








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