奏音―カノン―

□奏音―カノン― C
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『行ってらっしゃい』


キュヒョンは1日中、頭の中でソンミンの声を繰り返し思い出していた。




初対面の男を部屋に泊めた

一緒の部屋で眠り、同じテーブルで一緒に朝食を食べた



『行ってきます』と『行ってらっしゃい』を言い合った







なんとも奇妙な関係に可笑しさが込み上げ、思わず口元が弛む。


足早にホテルのエントランスを抜けようとするキュヒョンを、フロントマンが呼び止めた。



『お部屋の鍵をお預かりしております』
















上階へと進むエレベーターの中で、キュヒョンはカードキーをジッと見つめる。




期待していたわけではない

“おかえり”と言って貰えるとは思っていなかったし、感謝して欲しいとも思っていない



と思う――――










いつもの公園を抜けた時、そこにソンミンの姿は無かった。


だからもしかしたら、まだ部屋に居て眠っていたりするのかも、と思ったのは確かだ。











部屋へ入ると、ソンミンに貸したブランケットが綺麗にたたまれてベッドの上に置いてあった。



いつもは無造作に置かれているそのブランケットが綺麗に形を変えている以外は、ソンミンがここに居た形跡はまるで無い。



キュヒョンは静かな部屋を見渡し、昨夜ソンミンが眠っていたソファーに腰をおろす。





何を話したわけでもないのに、やけに部屋が静かに感じる


一言、メモくらいは残してくれてもいいだろう





そこまで考え、キュヒョンは思う。




―やはり期待をしていたのだろうか―




キュヒョンはひとつ小さく息をはいた。















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