奏音―カノン―

□奏音―カノン― A
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今日も歌を聞かせた。

リクエストに応えたら、優しそうな笑顔をした初老の夫婦が、お礼だと言って小さな花束をくれた。


充実はしている
やりがいもある

でも、何かが足りない気がする



きっと疲れているんだな



キュヒョンはメトロに揺られながら、窓に映る自分の顔を見つめていた。




早く話を纏めて韓国へ帰りたい

こんなことを思う自分は、柄にもなくホームシックにかかっているのかもしれない

あの男のせいだ―――――



礼儀の国の人間とは思えないあの態度

とんでもない奴だったけど久しぶりに話した自分の国の言葉


それが俺をホームシックにさせたに違いない





キュヒョンは今日の1日の出来事を思い返し、軽くため息をついた。



















まだ小雨の降る中、公園に差し掛かる。

傘を持っていなかったため、最短距離で帰ろうと近道をして木々の間を通り抜けようとした時、視界の端に大きな塊が入った。


毛布?
浮浪者か何かか?



そう思ったキュヒョンの目に見覚えのあるものが映る。





あのイーゼルは…
まさか…





近付くキュヒョンの足音に気付いたのか、その塊がゆっくり動く。


毛布の隙間から窺うような目でキュヒョンを見上げたのは


韓国人で、少年のようで、無礼で、気楽な


あの男だった。

















「…な…何…してんの?こんな所で…」


キュヒョンは思わず声を掛けた。


「………」



「まさか…宿、無いの?毎日ここで?」



「……」



「危ないよ」



「…大丈夫です…」





あまりに自分を警戒する男の態度に、キュヒョンは大きく息を吐き出した。









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