§hanchul§
□nothing better
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『う…待って…待っ…』
悲痛なうめき声がかすかに聴こえ目を覚まし
背中のぬくもりを頼りに手を伸ばす。
さっきまで寝息だったはずが、今は眉間に深く皺を寄せ涙を流していた。
『ハンギョン…ハンギョン…』
「居るよ…俺はここにいるよ…ヒチョル…」
まだ悲しい夢の中にいるヒチョルを優しく抱き締める。
「ちゃんと居るから…大丈夫だ…大丈夫だよ」
抱き締めながら耳元で囁き頭を撫でてやると、ようやくまた寝息へ戻った。
長いまつ毛には涙の雫。キレイな寝顔だ。
思わず唇でその雫を拭う。
愛おしさが込み上げると同時に、罪悪感や後悔が押し寄せて来た。
俺がここへ戻って来て1ヶ月。
ヒチョルは毎晩のように悪夢を見ている。
本人は覚えておらず、朝には無邪気な笑顔で起きて来るが毎晩夢で泣いている。
俺が突然消えたあの日からヒチョルはこうやって泣いていたのだろうか。
誰も抱き締めてくれる人が居ないこの広いベッドの中で1人で泣いていたのだろうか。
毎晩涙を流すほど深く傷付けた罪悪感。
『お前が戻ればそれでいい』
そう言い何も聞かなかったヒチョルが、どれだけの孤独を抱えていたか、この涙が全てを語っている。
ごめん。
ごめんなヒチョル。
俺に出来るのは毎晩抱き締めてやることくらいだ。
俺が付けたお前の傷を癒してやれるかは分からない。
だけど、俺はもう居なくならない。
お前が泣きながら眠らずに済むまで、安心を取り戻せるまで、俺はお前を抱いて眠るよ。
もう一度ヒチョルの長いまつ毛にキスをし抱き締める。
外は冷たい雨だ。
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