◆a la carte◆

□定番。よくある設定。
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         信蘭


「蘭丸、ほら。コレ」
「なんですか?」
「家康がさ。働き者のおまえに、って作ってくれた丸薬。疲れがとれて元気になれるんだってさ」
「家康さん、が......」



ヤバい。
蘭丸が怪しんでいる。
ちゃんとした物もあるけれど、精力が尽きない薬とか、感度が増す薬とか、確かに家康がつくるものはちょっとアレなものも多い。

しまった。
曲直瀬からだと嘘をつくべきだったか。



「では、せっかくですので....」

それでも蘭丸は俺が差し出したものならば口にする。
例えそれがどんなに疑わしくても、そして毒の可能性があったとしても、だ。
小姓の性。
可哀想な蘭丸。可愛い蘭丸。

複雑な思いで妖しく黒光りする丸薬を、コクリと喉を鳴らして飲み込む蘭丸を見つめる。

たしか、この前は催淫効果のある薬で3日間、それはそれは艶かしい蘭丸を堪能し尽くした。
その前は涙が金平糖になる薬だったっけ。
蘭丸の目から金平糖が溢れてくるなんて、なんと素晴らしいことかと、昼も夜も何度も何度も泣かせまくった。
その金平糖は綺麗な瓶に入れて、今もずっと側に置いてある。

ごめんね。蘭丸。
こんな悪い主君で。




「ひっく」
「お、どしたどした」
「ひっく。吃逆、が。ひっく」

ぼんっ、と煙が上がり部屋の中に立ち込めた。
火災警報器!と思った時には既に遅し。
ビービーと耳障りな音が鳴り響き、消火器を持った明智が飛び込んで来る。

「信長さん!お怪我は?!大丈夫ですか?!」

大きな火の手は無いと判断すると窓を開け放ち

「一体何があったんで....す......」

と、振り返りながら明智の動きが止まった。



「蘭丸...くん....?」
「けほっ。はい」

外へと逃げゆく煙の中、姿が浮かび上がったのは。

「信長さん、これは....」
「ははは。火事じゃなくて...良かったよなー。ははは」

耳が生え、尻尾が生え、手のひらがぷっくりとした、いつも通りきちんと正座する蘭丸で。

「猫....ですか。此度の薬は」
「そ、そーみたいだねぇ」

明智は大きく息を吐き出すと、思いっきり呆れた表情を貼り付けて無言で部屋を出て行った。



「あの...のぶにゃがさん...僕....」
「へ?!なに?!なんだって?!もう1回言って!俺のこと呼んでみ?!」
「のぶにゃがさん」

もしかして。

「おまえの名前は?」
「え?にゃん丸です」

ぐふぅ......っ

「わー!!!のぶにゃがさん!!」

鼻血噴き出した。






あまりの破壊力に鼻にティッシュを詰めながら、蘭...にゃん丸に向き合う。

なんて可愛いんだ。

いつもは頭を撫でてやると、まるで褒美を貰った子供のように喜ぶけど、今は猫だからこっちかな。
手を伸ばし顎の下を擽ってやると、蘭丸は目を細めて先程とは明らかに違う喉の鳴らし方をした。


「気持ちいいか?にゃん丸」
「はい。とても」
「おいで」

手を引いて膝の上に乗せれば、顔を俺の首元にすりすりと埋めてくる。

「珍しく甘えん坊さんだな」
「はい。今の僕は猫なので」

いつもいつも我慢して耐えて俺の傍に侍り、他の同年代の小姓たちと同じような息抜きをすることもない。

ただ、俺のために。
俺だけに。


可愛らしい唇を吸うと、遠慮がちに舌を伸ばして俺の唇を舐めた。
ざらっとした感触。


「蘭丸!舌がザラザラしてる!」
「ふふっ、猫ですから」

白い尻尾をくねらせ、黄金色に見える瞳を妖しく光らせて蘭丸はニッと笑う。



「のぶにゃがさん。僕を可愛がってください」


理性が弾け飛ぶ音がした。







よし、この薬。
この前の褒美にみんなに分けてやろう。













のぶにゃがとにゃん丸。
ゲーム感。
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