◆a la carte◆

□お誕生日おめでとう!
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ピンポーン

モニターに映ったのはメガネにマスク姿のきみ。

玄関のドアを開けた途端、するっと中に入って来て俺に抱きつく、幾つになってもしっかりしてるんだけど、でも華奢な体。

おぉ、熱烈。

鼻腔を擽るきみの匂いに抱きしめ返さずにはいられない。

「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

今年も一緒にいてくれてありがとう。


「良い子に待ってたかい?可愛こちゃん」

美人な坊さんとか、仇討ちされた赤い人とか、そんな時の低い声。
オトコマエのセリフなのに顔はふにゃんって笑っていて。
どっちが可愛こちゃんなんだ!と思いつつも口には出さず、きみの手を引いてリビングへ向かった。


「わぁ!いい匂い」
きみの匂いには敵わないけどね。

不器用だけど作ったのはきみが好きなオムライス。
よく分からない葉っぱいっぱいのサラダ。
デザートにはスイカとカフェラテ。
多分かんぺき。

「なになにー。ぼくの誕生日じゃないのに、ぼくの好きなものばっかり。どうしたのー」
「この前きみの誕生日の時さ。俺がいっぱいプレゼント貰った気がして。お礼に今日はきみをもてなそうかと」
「ぼく、なんかしたっけ?」

やめて。そんな顔して首傾げないで。

「あ、これ。ケーキ買って来たから冷蔵庫入れとくね」

抱きしめようとした俺の腕をアッサリと躱して。
あぁ、ひどい。
俺、誕生日なのに。

そのまま手を洗いに消え、戻って来ると
「可愛こちゃん。唇尖ってんで」
ちゅっ、と啄んで椅子に座った。


一緒にご飯食べて、別々にお風呂入って(誕生日なのに、だ)、一緒にソファーに座る。
ようやく始まった稽古の話とか。
今度の役作りはどうするとか。
昔、共演した思い出深い番組の再放送とかBlu-ray再販とか。
他愛もない話を隙間なくくっ付いて、まるで内緒話みたいに2人だけの世界で囁きあう大切で甘い時間。




きみに出会った時の19歳の俺に言いたい。
あれからずっと一緒にいられるよ、すげー幸せだぜ!って。
あのキレイなお兄さんに可愛こちゃんて呼ばれて、顔や髪や際どいトコロ、アチコチ弄り回されてるよ、って。

「はぁー、いい誕生日だなー」

ずっと俺のものだよ、って。


そう言ったら赤いリストバンドして木刀振り回してた19歳の俺は、どんな顔するかな。
好きで好きで仕方なかったから、わんわん泣いてきみにしがみ付いてるかも。




「朱麗炎!」
手刀で俺の太腿を打って、今考えていたばかりの、あの頃の笑顔で。
「これからお誕生日バージョンのすっごいイヤラシイコトするのに、他のこと考えてたら燃やすよ!」
って言ってることはあの頃と今が混ざったきみで。


キレイなお兄さんからキレイでイヤラシイお兄さんに進化しているきみに、俺は昔も今も、これからも一生完敗。




2020.6.29 0:51
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