◆a la carte◆
□ハーゲンダッツアイスクリーム
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ハンチョル
茉莉花茶は中国産。
ふわっと香るジャスミンの匂いに、思わず顔が綻ぶ。
「ヒチョル、どうした?」
「ん、いや、いい香りだと思って」
「どれ」
普段はほわほわしてるのに、こういう時は動きが早くて一瞬で捕まる。
「ほんとだ。良い匂いだ」
首元に顔を埋めてるアイツを引き剥がして、ソファーから立ち上がった。
「なんで逃げるんだよ」
「おまえが逃げるから」
「俺が?逃げる?」
俺はいつも、いつでもおまえを追いかけているのに
ほわほわ笑ってるアイツが気に入らなくて、その男らしい腕にガブリと噛み付いた。
「いった!なに!なんだよ!」
俺が行けないところまで逃げたクセに
おまえも早く彼女作って、結婚しろ、って
いつまでひとりでいるつもりだ、って
あんな風に笑って
幸せそうな顔見せつけて
「おまえだって幸せそうじゃないか」
またあの顔で笑って俺を引き離そうとするから、今まで噛んでたすぐ隣に
もうひとつ歯形をつけてやった。
「ヒチョル、分かったから。分かったから離せって」
何がだよ
何も分かっちゃいないクセに
「ほら、アイス食べようよ。ジャスミンだって。ハーゲンダッツのロイヤルジャスミンティー」
ガシガシ噛んでる俺をそれ以上気にすることもなく、小さなスプーンで掬われたそれは何度もハンギョンの口に運ばれていく。
「ん。美味い。ヒチョルも食べたいだろ?ほら。俺の腕よりおいしいと思うよ」
つい、と口元に差し出されたトロけたアイスが載った小さなスプーン。
ふわりと香るジャスミン。
と、コイツの匂い。
思わず腕から口を離し、スプーンへと舌を伸ばした。
「うまいだろ?」
「うん」
「いやらしいね。....誘ってる?」
「うん」
ジャスミンの香り。
きっとこの先、その香りを嗅ぐたびに今夜のことを、コイツのことを思い出すんだろう。
だから嫌なんだ
離れ離れなんて
お互い別の人生があって
一緒にいられないのに、一緒に生きて
それはもうどうしようもないけど
離れているから
一緒じゃないから
こうやって思い出だとか跡ばかりが残っていく
「.....離れたくないな...。ヒチョル、スーツケース入れよ」
性懲りもなくほわほわ笑ってる顔にムカついて、残ったアイスをその腹にぶちまけて
ちょっとシャレにならない強さでまた噛み付いてやった。
一生俺が遺ればいい。
呼び方が『アイツ』から『コイツ』に変わるレラ様のココロ。