parallel
□空と海と、嫁な君とE
1ページ/4ページ
何故、ドアを開けてしまったんだろう
何故、部屋にあげてしまったんだろう
何故、すぐに追い出さなかったんだろう
何故…
もしもあの時
そうしていたら、こんな―
確実に薄れていく後悔。
毎日はそれなりに、流れるように、歪なのに、平穏に過ぎていく。
そのイロもカタチもぼんやりと消えていく後悔を引き留めてまで鮮明なものにしようとするのは、それは消しちゃいけないと、失くしちゃいけないと思ったから。
継ぎ接ぎだらけの後悔でも、最後まで持っていなきゃいけない気がしたから。
そうでもしないと俺は―…
昼休み、旧校舎の裏にあるベンチに横になる。
食欲は、ない。
頭の中は当然、昨夜のことでいっぱいで。
ソンミンさん自身へと伸ばした腕、そんな自分の衝動にも理解が追い付かないのに。
生々しいまでに残る白い肌の感触や、耳奥と脳裏に焼き付いて離れない息遣い、動くたびに髪の毛からすべり落ちる滴。
何より、まだ体が覚えている、もっと直接的で震えるような、焦げ付くような灼熱…
そんなものを消し去ろうとしながら、必死に後悔しよう∞しなくちゃ≠ニ試みた。
ポケットからスマホを取り出し、母親の情報を呼び出す。
「もしもし、母さん?」
『キュヒョナ?あら、お母さんも電話しようと思ってたのよ。お見合いの話でしょ?』
「うん、まぁ」
『来週の日曜日辺りはどうか、って先方さんから連絡があってね』
「あの、さ…。婆ちゃんからそっち連絡いってない?」
『お婆ちゃんから?無いわよ。お婆ちゃん今、海外旅行中だし。なんで?』
聞けば婆ちゃんは親友であるソンミンさんのお婆さんが亡くなったことで落ち込み、自分もいつ死ぬか分からないからと、1人でヨーロッパ旅行に出掛けたらしい。
元気でアグレッシブで何よりだけど、何の説明も家族への話も無いまま旅に出てしまったことは、どうしたって恨めしく思う。
俺はこんなに大変なのに。
「―とにかく、お見合いの件はそういうことで」
『もう!何がそういうことよ!こんな良い話、滅多に無いんだからね!』
「うん。ホントごめん、て。うん。うん。ごめん」
じゃあ、と電話を切れば俺から出たのは盛大な溜め息で。
こんな田舎に嫁いで来させるなんて申し訳ないとか、まだ結婚に前向きになれる年齢じゃないからとか、間違ってもこれはソンミンさんの為でもせいでもないとか。
今、頭の中を隅から隅まで占めていることと、見合いのことは別問題だと、言い訳を手繰り寄せながら午後の授業の準備に向かった。
.