parallel
□空と海と、嫁な君とA
1ページ/3ページ
「ずっと・・・生まれてからずっと、花嫁修業して来ました」
そう言われて、言葉に詰まった。
俺のために生きて来た
と言われたのと同じだから。
何なんだ、それは
そんな人身御供の如く差し出されても
時代錯誤もいいところだし、理不尽極まりない
何の疑問も抱かずここまで来たなんて、正直おかしい
変過ぎる
「だからね、さっきから何回も言ってるけど、そんなこと言われたって・・」
「・・帰るところが・・・無いんです」
「帰るところが無いって・・・じゃあどっから来たの。出て来たところに戻ってくださいって話でしょ」
「もう、無いんです・・・祖母が・・先日亡くなったので・・家も処分しました」
「・・・・・」
家を処分・・・
亡くなったって―
マジかよ
ここで追い出したら完全に俺、悪者じゃないか
わざわざこんな離島まで、祖母同士の勝手な約束で知らない男のところに嫁≠ノ来た
今まで俺のために生きて来た、男
身寄りも無ければ、行く宛も無い
でも、だからと言ってこんなこと到底受け入れられない
考えろ
考えろ、俺
「あの・・・なんで俺たちが結婚・・・あなたが俺のところに来ることになったのか、理由を聞いてもいいですか?」
「理由・・・」
何の曇りもない、真っ直ぐに俺を見る黒い瞳がやけに居心地が悪い。
「ずっと花嫁修業・・っていうんですか?して来たって言ってたけど、あなたもおかしいと思ったでしょ。自分も男なのになんで、って」
ソンミンさんは両手でマグカップを持ったまま、視線を落とし黙っている。
「ソンミンさん?」
小さく息を吐き出しカップに口をつけると、小ぶりな喉仏がくん、と上下した。
「・・・お前はキュヒョンのために生まれて、キュヒョンのために生きていくんだって、5歳の誕生日に言われました」
その顔は昔を懐かしむように、わずかに微笑みを蓄える。
「別に・・・変だとか不思議には思わなかったです。母親代わりに僕を育ててくれた祖母の言うことだから、きっとそういうものなんだろうって」
生まれたての雛鳥かよ
どれだけ素直に刷り込まれたんだ
「一度もおかしいと思うことは無かったの?」
「・・・一度だけ、聞いたことがあります。もしかしたら僕は性別を・・間違えて生まれてしまった気がして・・男同士なのに、どうして?って」
「・・・で?」
「運命だから、って」
.