珈琲屋 ヒニム
□#7
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見馴れた街並み
それなのに
何年経っても、何度来ても、アイツに逢えるというだけで胸が高鳴る。
蔦の絡まる丸太小屋が見えて来れば、自然と歩く足が速まった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!速い!」
「おっと、ごめん」
上着の裾を掴む弟を宥めるように肩を抱き、低めの心地好い音のするベルが揺れるドアを開ける。
「いらっしゃいませー」
いつも最後のせ≠フ部分が少し伸びる、甘い声
「ソンミナ、こんにちは。久しぶり」
「ハンギョンさん!!リーシーも!こんにちは!」
「どうも」
「こらっ、リーシー!ちゃんと挨拶しなさい。ソンミナ、ごめんね」
全然、と言うようにソンミンは笑顔のまま首を振った。
「これ、お土産。ジャスミンティーの茶葉。好きだろ?」
「わぁ、ありがとうございます!嬉しい!」
ソンミンはいつも本当に嬉しそうに笑うから、その丸い頬につい手が伸びてしまう。
人差し指の背で撫でると、ソンミンは擽ったそうに肩を竦めてもう一度笑った。
「今ヒチョリヒョン、ジョンスさんのところに行ってるんです。すぐ戻るって言ってましたけど」
「そう。いいよ。ここで待ってる」
店内を見回すと、片隅に半年前には無かったガラス張りの個室みたいなスペースが出来ていることに気付く。
大きな観葉植物と、水を張った大小様々な形の甕の中にはキラキラと光るビー玉が入っていた。
水の底に沈むビー玉が太陽に反射するのを見ながら、想うのはヒチョルのこと―
ヒチョルは大きな工事以外、店のことを他人に任せたりしない
どんな顔をして、何を想いながらこのスペースを作ったのかな
意志の強そうな横顔が浮かぶ。
きっとこの特別な空間も、ヒチョルがデザインして、テーブルの配置からインテリアまで、全部自分で考えて、悩んで、楽しんだのだろう
観葉植物の大きさがどうだとか、この向きはああだとか、このテーブルじゃなきゃ、あの角度は、甕の並びは、ビー玉の種類は、カップの柄は、
気に入らないことがひとつでもあれば、きっとドンヘやシウォン、酷い時にはお客さんにまで、みんなに当たり散らして
ソンミンに宥められ、最後はジョンスに叱られ―
光景を浮かべながら思わずクスクスと笑みが溢れたところで、ガラスの向こうにその愛しい姿を見つけた。
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