珈琲屋 ヒニム

□#7
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「コーヒーのおかわりお持ちしました。あとドンヘ特製のアールグレイのシフォンケーキです。良かったらこの蜂蜜も使ってみてくださいね。すごく美味しいんですよ!」




このソンミンみたいに・・・








「ありがとう」


「ヒチョリヒョンには、こっちの生クリーム無しで」


「おう」





不思議な魅力

ふんわり、とそこに立つソンミンの纏う雰囲気はいつも温かく柔らかい

なのに、このヒチョルに対しきちんと意見したり、他人に流されない強さも持っている



可愛い弟

俺にとっても、ヒチョルにとっても―










「おい、ソンミナ。ちょっと、ここに立て」


「はい?」


「リボンが曲がってる」




ヒチョルが立ち上がり、自分の前に立たせたソンミンの胸元のリボンを一旦ほどいて結び直す。




「・・・っ!じ、自分で出来ます!」


「うるせぇ、じっとしてろ」



持っていたトレーを握りしめる手には明らかに力が入り過ぎている。

いたたまれない様子で真っ赤な顔をしているソンミンは、黙って俯いた。








いつからだったか





ソンミンがヒチョルのことを好きなのは、なんとなく気付いていた。


目線だったり、仕草だったり



多分それはヒチョルも分かっていて



「・・・ったく、忙しくても鏡くらい見ろよ。もうちょい顔あげろ。結びにくい」


「・・・はい・・」



自分に向けられる真っ直ぐ過ぎるくらい濁りのない想いに、きっと心地好さも感じていて






「ソンミナ、ちょっとこっちも、おいで」


「え?あ、はい」


「髪、伸びたね」



横に流していた髪の毛を、耳の上辺りでピンで留めてやる。



「よし、出来た。うん。可愛い」


「あ、りがとう、ございますっ」





俺の恋人が

俺のものが好きだと


ヒチョルのことが好きだと挑んで来る奴なら良かった




だけどすべてを分かった上で、叶わなくていいと想い続けるソンミンは

なんだかもう、ヒチョルの一部みたいで



愛しさすら感じる









「じゃあ失礼します。ハンギョンさん、ごゆっくり」



パタパタと小走りで去って行くソンミンの背中を見詰めていると、横顔にヒチョルの視線を感じた。


その強い瞳を受けたまま言う。






「ヒチョラ、浮気すんなよ」


「・・・お前こそ」




早く二人になりたい

二人きりになってヒチョルを独り占めしたい

この腕の中に閉じ込めたい




湧き上がる愛しさと衝動を抑えるのは大変だ―



















「ヒチョラ。ねぇ、あのカウンターの端っこの方に座ってる仔犬みたいな大型犬。ここに来た時から俺、なんだかずっと睨まれてるんだけど・・・今も凄いこっち見てる」


「あぁ、あれはオモチャだ。俺の」


「オモチャ?」




ヒチョルは悪そうな顔でニヤリと笑って、カウンターの方に向かって大声で話し掛けた。







「キュヒョナ!ソンミンの首筋と胸、真っ白でスベスベだぞ!」





店のあちこちで盛大に噴き出す音と、咳き込む苦しそうな呻き声がして




「ヒチョリヒョン!!!!」



ソンミンの叫び声と同時に、仔犬みたいな大型犬はカウンターに思いっきり頭を打ち付けていた。









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