珈琲屋 ヒニム
□#7
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無造作に結い上げられた、ゆるくウェーブの掛かった髪
前に逢った時は、結うほど長くは無かったのに
ヒチョルに逢えなかった時間の長さに、自分が此処に居なかった時間の長さに、不意に胸が痛くなる。
頬杖をつきながら外を眺める俺に気付いたヒチョルは、手を振ろうとしたのだろう
右手を挙げた瞬間
店から出て行った客と鉢合わせし、胸元で掌をキュッと握ったまま丁寧にお辞儀をして見送った。
「よう。早かったな」
「うん。仕事は午前中にどうにか片付けてそのまま飛行機飛び乗った。早くヒチョルに逢いたかったからさ」
「ばっ、バッカじゃねーの!」
綺麗な顔がパッと赤く染まり、プイッと目を逸らされる。
半年ぶりに見る、何年経っても変わらないヒチョルの可愛い仕草。
「今回、どのくらい居られんの?」
「んー、また1週間。今回は半年頑張ったから、休暇長く申請したけどダメだった」
「―そうか。ホテルは?」
「いつもの場所。俺はずっとヒチョルのところに泊まるつもりだから、リーシーの分だけ、ね」
ヒチョルを見詰めて笑って見せると、あーとか、うーとか呻いて更にそっぽを向かれた。
「り、リーシーは?」
「向こうにいる。またあの人来てるみたいで」
「あぁ、だからキム・ジョンウン朝からずっといたのか」
テラス席の手前、一番端の席に座る男性
その向かいにリーシーは座っている。
盛り上がってる様子はまるで無い。
それどころか、リーシーが喋っている声は全く聞こえないし、ニコリともせずにテラスの向こう側をただ眺めている。
「アイツ、リーシーの連絡先とか何も知らないんだろ?なのにお前らが来る日には必ず現れる。なんだ、アイツにはリーシーセンサーでも付いてんのか?」
「あはは、さぁね。リーシーに聞いても知らない人≠フ一点張りだし。しかしあの男の人、ジョンウンさんだっけ?リーシーがあんなでも楽しいのかな。兄としてなんだか申し訳ないよ」
「アイツはあれでいいんだろ。さっきからチラチラ、リーシーしか見てない」
元々リーシーは他人に対し愛想があるほうでは無いけれど、それにしたって少しくらい笑顔を見せても良い気がする
リーシーだって、ああやって毎回ジョンウンさんのテーブルに行くわけだから、きっと何か通じるものはあるんだ
兄としては、心配や不安ばかりが募ってしまう
もう少し、ほんの少しでいいから、リーシーが心を許して
俺やごく近い人たちに見せるみたいに可愛く笑ったら
そしたらジョンウンさんにリーシーの可愛らしさは勿論、素朴さとか良いところがきっとたくさん伝わるのに
例えば、そう―
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