珈琲屋 ヒニム

□#5
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「あの!!・・えっと、じゃあ良かったらウチのお店、一緒に行きませんか?ここのパンも美味しいけど、ドンへのパンケーキやサンドイッチも凄く美味しいですよ。・・・・・そしたら・・二人とも濡れなくて済むし・・」




真っ赤になったキュヒョンさんにつられて

何故だか僕まで赤くなってしまって



手のひらでパタパタ扇いでもまだ熱い








背の高いキュヒョンさんが傘を持ち、僕は隣で帽子の箱を胸に抱えて

ひとつの傘で歩く。






キュヒョンさんは

声を掛けてくれた後、一度も目を合わせてくれない



嫌われてるわけではないと思うんだけど












「リボンが・・・」


妙な沈黙を破りキュヒョンさんが指差す先を見ると

胸元のリボンが帽子の箱に引っ張られ、ほどけて無惨な姿を晒していた。





「あ」


「・・・・」


直そうにも両手は塞がっているわけで

リボンに気をとられてずり落ちそうになる箱を慌てて抱え直すと

そのリボンはスルスルと襟をすり抜け、片方だけが短くなっていく。





「わわっ!キュヒョンさんっ!」


雨の中に落ちないように、思わずキュヒョンさんに助けを求めた。




短くなる端をうまく掴んでくれたキュヒョンさんは

傘を器用に肩と首で支え、僕に向き合う。





僕の背中が濡れないように二人の距離が近付くと

キュヒョンさんは僕のリボンを結び始めた。





「え、あ、あの・・」


「・・・・・」






――とりあえず、箱の上に置いてくれればいいですよ



そう言おうとしたけれど

眼鏡の奥の眼差しがあまりにも真剣で

器用そうなのにリボンと格闘する姿がなんだか可愛らしくて




「キュヒョンさん・・・傘、もう少しそっちにやらないと・・キュヒョンさんの背中が濡れちゃいます・・・」


「・・・なんか変になっちゃった・・すみません・・・」



眉間にシワを寄せ、納得いかない表情でクイクイ引っ張る先には

少しばかり、なんていうか、独創的な形をしたリボン








この人は優しい人なんだなぁ


この短い時間に

キュヒョンさんの良いところをたくさん発見した気分になって

なんだかお菓子やパンの薫りを吸い込んだ時みたいに幸せな気分になって






「キュヒョンさん、ありがとう」


僕は心からお礼を伝えた。




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