暗部のモブ

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「いたた⋯」

 細かな傷がお湯に悲鳴を上げる事を甘受しながら、土埃にまみれた体を流して清める。

「薬あったかな⋯」

 水気を取り払うのもそこそこに漁ったポーチから発掘したのは、残り僅かを訴えている傷薬。明日貰いに行こうとぼんやり予定組みながら、届く範囲に塗り込んでいく⋯と、腕を通る指先がつかえた箇所になんとなく動きを止めて目をやれば、背後からすっかり馴染んだ香りが身を覆った。

「──ごめんね⋯」

 ふわりと包み込んでくるような、この子の気配に鈍感になったのはいつからだろう。重ねられた指先は記憶より随分と大きくなってしまったな⋯と、まだ新しい筈の記憶に思い馳せながら、帰宅の挨拶より優先させた言葉が気になって冗談めいた口調で問う。

「怒られるような事してきたの?」

 開口一番謝罪を述べた彼の頭を空いている方の手で撫でれば、それに甘えるように肩口へと寄せられる頬の流れもまるで平和な日常のように、じわりと⋯これが幸福だと、そう感じさせてくれる厄介者。

「⋯この傷、オレを庇った時のでしょ?」

 これまた随分と懐かしい。その言葉で思い出すのは彼の班の救出任務。漸く見付けたチャクラ切れの彼を背負った瞬間を狙われ、死角から飛ばされたクナイを咄嗟に伸ばして受けてしまった腕の傷。

「名誉の負傷だよ?」

 塗布されていた毒で死にかけたのも朧気だ。気にしていたら忍は務まらない。何より護れたという喜びが大きいのだから、そんな顔をしないで欲しい。歪なその線上を辿るカカシの指を視線で追えば、また小さくごめんねと言われてしまう。そんな言葉を望んではいないのに。すっかりしょげてしまった手触りの良い髪を梳き、そこはお礼が嬉しいよと念押せば、返答の代わりか腰に回された腕が強まった。

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