暗部のモブ

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「─⋯女性と暮らしてるって本当ですか?」
「⋯」

 周囲に気を配ってか職業柄か、小さく耳打ちしてくる後輩にジト目を返せば、「くのいちが噂してました」と相変わらずの猫目が此方を伺ってくる。

「女の情報ってのは怖いねぇ⋯」

 ふーっと吐く溜息を肯定と受け取ったのだろうテンゾウは、それ以上を踏み込んでこない。こいつのこういう所が好ましい。

「⋯⋯」

 思わず止めてしまっていた足を動かせば、背後から「寄らないんですか?」と頓とした声をかけられる。寄るも寄らないも、偶々、ホント偶々、エイさんに似合いそうだと白い石の付いた首飾りが目に入ったから見ていただけで、買うつもりは毛頭ない。

「まだ早いの」
「え?」

 いつか彼女を彩る1つとして贈るなら、その首に掛ける所までを任されたい。半歩後ろを歩く気の利く後輩に教えるのはそれからでも遅くはないだろう、その時に備えて色々固めるものもあるようだ。

「─⋯」
「呼び出しですね」

 高い鳥の声が告げた召集はこちらに対してではなく、明朝戻ったばかりの彼女を思い出し、せめてもう少し⋯と思った所でどうしようもない。結局オレに出来る事は限られていて、やはり同期か上に生まれたかった、とそれこそどうしようもない事をこう何度も考えてしまうのも、最早どうしようもない感情だと知ったのは随分と最近だ。

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