暗部のモブ

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「はぁ⋯」
「⋯大丈夫ですか?」

 広げた配置図もそこそこに頭を抱え込んだオレを心配するテンゾウに、片手を振って返答する。

「何か悩みでも?」
「⋯何でもないよ」

 任務に対する悩みではない。しかし正直な所何でもなくはないが、自分はこうも公私混同分別付けられなかっただろうかと過去を振り返っても、その回答は得られない。自己分析など基礎中の基礎、とっくに解析終えていたと思っていた己に未開の地があろうとは。しかし内容が内容だけにテンゾウに話すのも躊躇われる。身が入らなければこれ以上は時間のロスだ、と自責叱咤の為の切り上げを口に出す。

「後はやっとくから、今日はもういいよ」

 煮え切らないのだろう不満げなテンゾウに早く行けと促せば、渋々といったように室内に残るのはオレ一人。人気の無い薄暗いこの部屋に感謝する日が来ようとは。

「⋯⋯」

 本日何度目かもわからない、払拭しようにも受け入れようにも上手くいかない霧がかったような感情を持て余し、背もたれに体重をかけ空間を仰げば、意図せず沸き上がる感情に目眩を起こしそうになる。あの日に限らずオレはエイさんが好きだと確信に近い思いを持っていた。が、それを認めるより先に気付かされてしまったのが問題だ。心の準備というべきか、備えの有り無しでは受容の度合いが全く違う。痛感してしまったこの気持ちはきっと、暫くオレの中で消化不良を続けるだろう。

「─⋯」

 ⋯いっそ、言えたら。エイさんに好きだと言ってしまえれば、きっとあの人の事だ、自分も好きだと返してくれるだろう、けれどその時オレは言えるだろうか、意味が違うと。オレの好意とアナタのそれは違うんだと。オレはもうずっと、一人の女性としてエイさんが好きなのに、今の彼女が持つのは親愛や家族愛に近いものだろう。オレはまだ彼女に並べていない。せめてもう少し、──彼女を包み込めるようになるまでは。なんて考えは端から見ればちっぽけなプライドだろう。それでも、1つでも断られる理由を消したくてこんな足掻きをしてるんだ。

「はー⋯」

 取り敢えず、なんとか一人の男として意識してもらわなければ。まずは彼女の中にいるであろう可愛いカカシくんを淘汰するべく目標立てて、長期戦?こちとら専門分野だよと決意を新たに部屋を出た。

***

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