暗部のモブ

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 久し振りに与えられた休み。これと言った用はないがブラブラと里内を歩いていると、拓けた空き地に見知った顔を見付けて、心なしか弾むような足取りで目当ての人の視覚に入った。

「何してるんですか?」
「特訓──っ」

 パシパシと覚束無い組手の対峙者に「お!」「いいぞ!」なんて声を掛けるエイさんの表情はどこか楽し気で、10才位だろうか。相対する少年は見た事がない。

「ねぇちゃん、ありがとうございました!」
「頑張ってね」

 肩で呼吸を整えながら、片手を大きく上げて去って行くその背が見えなくなるまで手を振っていたエイさんに詳細を尋ねると、何でも近々男の決闘をするらしい。偶然見掛けた彼は通算全敗で、力になってあげたかったとか。

「⋯勝てるといいですね」
「ねー」

 ふふっ、とどこか懐かしげな、眩しいものを見るような、そんなエイさんの視線の先を追ってもオレには知る由もないのに、そうせずにいられない。

「買い物して帰ろうか」

 私も休みなんだ。そう付け足したエイさんの笑顔はいつも通り。こんな時、自分の幼さを歯痒く感じる。例えばオレがあなたと同じ年だったら⋯せめてもう少し大きければ、分かち合える事があったのだろうか。

「何食べたい?」

 差し出された掌は自分のそれより大きくて、重ねるように柔々と組んだオレの心情を知らないエイさんがぎゅっと握り返してくれた笑顔の底を、いつかオレに見せてもいいと思える位、あなたの隣に並べる位大人になるから、置き去りにしないで欲しいというのはオレの子供染みた我儘だ。

***

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