暗部のモブ
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「濡れてる⋯」
腕を枕に、机に伏して寝息を立てているエイさんの髪を少しだけ掬えば、風呂上がりの水気と香りが掌から感覚を刺激する。思えば最近、起きている状態で顔を合わせる事がなかったな⋯と、エイさんの顔と同じ高さまで身を屈めて、触れないギリギリの所でゆっくりと、目の下にある隈を人差し指の背で辿れば、違和感にピクリと動いた瞼が持ち上がりオレを写した。
「⋯カカシ、」
「⋯はい」
「⋯寝てた⋯」
「知ってます」そう答えたオレに伸びてくるエイさんの手を、ほんの少し身を乗り出して左の頬で受け止める。
「⋯怪我、しなかった?」
「大丈夫。エイさんは?」
添えられたままの白い手の甲を重ねるように包んで握れば、エイさんが笑って「大丈夫だよ」と返事をくれる。
「⋯風邪ひきますから、布団に──」
行きましょう。そう続ける前に上がったエイさんからのくしゃみの返答を咎めるように諌めるように、持っていたタオルでくるんで引き寄せた額を合わせれば、ごめんごめん、と気まずい顔のエイさんから伝わる低い体温に、酷く揺さぶられる自分を振り切るように、早く寝ましょうと促した。
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