パロ詰め合わせ

□鬼と夜叉
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白夜叉。
攘夷戦争の折、敵からは畏怖を込めて、味方からは畏敬の念を込めて俺はそう呼ばれていた。
あれから十年もの時が過ぎ、今ではその名もヅラや高杉らと共に伝説にまでなっているらしい。
でもそれを誇りに思った事など一度もなかった。
何が白夜叉だ。
何が伝説の攘夷志士だ。
そんな物が一体何になると言うのか。
大切な人すら護る事が出来なかった無力な自分にそのような通り名など何の意味もないし、それどころか邪魔でしかない。
その名は戦が終わっても俺の後を付いて回り、そして今でもこの首を締め上げている。
俺にとってその名は最早邪魔でしかなかった。


「待ってましたよ坂田さん。
あなた、最近新しいご友人が出来たそうですねぇ。
真選組副長、土方十四郎殿ですか」
局長室に呼ばれ嫌々ながら出向けば、相手はこちらには目もくれずにそう言った。
それが手にしているのは恐らく、見張り役が提出したここ最近の俺の動向を記した報告書だろう。
本当に仕事熱心な事だ。
俺を見張るよりももっと有益な仕事は世の中に山程あるだろうに。
「いや結構。
やはり元はどこの馬の骨とも解らない野良犬同士なだけあって気が合うみたいですねぇ。
普段は誰とも関わろうとしないあなたが自分から彼を飲みに誘ったそうじゃありませんか。
驚きですよ」
「うるせぇな。
俺がどこでどうしようが勝手だろうが。
プライベートの事まであんたにとやかく言われたくねぇんだけど。
それとも何?
元野良犬の飼い主様は嫉妬してんですか?
自分は一度も飲みに誘われた事なんてねぇからってさ」
嫌みたらしい上司に、これまた嫌みたらしくそう言い返すと、相手はチラリと俺を見てまた書類に視線を戻す。
「いえ、別にそう言う訳ではありませんよ。
ただ、鬼と夜叉ならお似合いだと思ったまでです」
そう言って上司は手にしていた書類をパサリと机の上に置く。
「せいぜい今の内に仲良くしておく事ですね。
近い内に顔を合わす事すら出来なくなるでしょうから」
「おい、それってどういう・・・」
「もう良いですよ坂田さん。
今日のあなたの仕事は終わりです。
上がって良いですよ。
ご苦労様」
どういう事だと訊ねる暇すら与えずにそう言って佐々木はシッシッと、それこそ犬猫を追い払うような仕草をする。
もう話す事など何もないと言わんばかりにまた別の書類に向かう上司に舌打ちして部屋を出た。
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