パロ詰め合わせ

□俺の彼女は拾い物
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「ただいま」
パタンと玄関の戸を閉めて鍵を掛ける。
上がり口に座って靴を脱いでいる所にパタパタと廊下を駆けて来る音がした。
「お帰りー。
今日もご苦労さん。
今カレー作ってんだ。
もうすぐ出来るから先にお風呂入っちゃって」
そう言いながらふわりと抱き付かれる。
カレーを作っているからか、その身体から漂うスパイスの香りに空腹を覚えた。
「風呂より先に飯食いてぇ…」
そう呟けば、
「しょうがねぇなぁ」
と苦笑される。
「それなら服は着替えて来いよ。
スーツ汚れちまったらクリーニングに回さなきゃならなくなんだろ」
そう言うとそれは俺に巻き付けていた腕を離して立ち上がると、さっさと台所へと消える。
それを少しだけ寂しく思いながら俺もまた立ち上がると寝室へと歩を進めた。
きつく締めたネクタイを解いてスーツと一緒にハンガーに架ける。
タンスの中から適当にシャツとパンツを取り出して身に付けた。
服を着替えるとそれだけで気が緩むのか、自然と欠伸が漏れる。
ボリボリと頭を掻きながらリビングに行くと、そこに充満するカレーの匂い。
ソファーに座ってテレビのリモコンを掴み、けれども視線は引き寄せられるように対面キッチンに立つ恋人へと向けられた。
ふんふんと何やら上機嫌に鼻唄を歌いながら、それはクルクルとお玉で鍋の中をかき混ぜている。
こいつが作るカレーは本格的な物だ。
市販のルーに頼らないこいつのカレーは酷く手間が掛かる。
こいつは一体何時間キッチンに立っているのだろうか。
食に拘らない俺は食えれば味などに頓着しない。
要は腹を満たせるのならばレトルトだろうが手作りだろうが何だって構わないのだ。
だがこいつは違う。
口に入れる物に関しては人一倍気を使うし並々ならぬ拘りがある。
気分が乗らない時などは手抜き料理が並ぶ事もあるが、大抵は手間隙の掛かる料理を作る。
毎日大変だろうから簡単な物で良いと言っても聞かない。
それは俺の為にと言うよりは単純に自分がそうしたいからと言った様子だった。
だから俺もあまりあれこれ言わないようにしている。
人の中には料理を趣味や生き甲斐とする者も居ると聞く。
きっとこいつもその部類なのだろう。
俺からしたら面倒で大変な作業に思える事も、本人からしたら楽しい事なのかも知れない。
それならそれを俺が邪魔する訳にも行かないだろう。
そう思ってなるべくその妨げにならないように心掛けている。
だがこれの唯一にして最大の弱点は、腹が減っている時に直ぐに飯にありつけない事だろう。
先程からぐうぐうと煩く鳴る腹の虫に苦笑いしながら、目の前の机の上に置かれたボトルガムを掴む。
四種類のフルーツの味がするそれを三つ掴んで口の中に放り込んだ。
レモンなのか青リンゴなのかブドウなのか混ざりあって訳の解らない味になったそれを咀嚼しながらテレビをつける。
こいつは何時も俺が帰って来る頃には夕飯を仕上げている。
だが今日は何時もより一時間程早く仕事を切り上げて来た。
と言う事は後一時間しないと夕飯にはありつけないと言う事なのだろう。
こんなに美味そうな匂いが充満した部屋で空っぽな腹を抱えて一時間…。
とても無理だ。待てない。
出前でも頼もうか。
そんな考えも浮かんで来たが、そんな事をすれば確実にあいつは臍を曲げるだろうし、何より懸命に夕飯を作ってくれている銀時への冒涜行為に他ならない。
だからここはぐっと堪えて、ただひたすらにガムを噛んで飢えを凌いだ。
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