パロ詰め合わせ

□先生、俺じゃダメですか?
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「先生好きです。
俺と付き合って下さい」
迷う事の無い真っ直ぐな瞳に射抜かれて、ハァと溜め息が漏れる。
これで何度目だろうか?
全く同じ内容の告白をされるのは。
こいつは後何回俺に振られれば諦めるんだろうか?
もう何か真面目に相手してやるのも面倒になって来ちまったよ。
溜め息と一緒に紫煙を吐き出して、それを懐から取り出した携帯灰皿に押し付けて火を消した。
俺の放課後の楽しみを邪魔しやがってよ。
校庭で走り回ってる生徒達を眺めながらの一服が俺の数少ない職場での楽しみなのに。
「あのさぁ土方。
何度も言うけど教師と生徒の恋愛は御法度なんだよ。
オメーも頭良いなら解んだろ?
お前とそんな仲になりゃあ、間違いなく俺の首が飛ぶんだよ。
先生を無職にするつもりか?
野垂れ死にさせてぇの?」
困ったような表情を作りながらそう言えば、それはムキになって言い返して来る。
「なら、ならどうしろってんだよっ!
俺だってそんな事解ってんだよ!
だけどそれでもあんたが好きなんだ!
なぁ先生、俺じゃダメなのかよ?
こんなに先生が好きなのに、何で…、何であんたは俺を受け入れてくれねぇんだよ」
その言い分に思わず苦笑いする。
本当にお前はガキだな土方。
なんも解ってねぇよお前は。
さっきからお前は自分の事ばかりしか口にしてねぇじゃねぇか。
俺の立場とか心情を鑑みるだけの心の余裕ってのが見えやしねぇ。
お前を仮に受け入れたとして、それで俺がどんな不利益を被ったとしても責任なんて取れないだろうし、きっとそんな気もないのだろう。
只々俺を好きだと言うその気持ちにしか目が行っていないのだ。
可哀想に。
俺みてぇな駄目人間に惚れるより、同じ年代の女の子に惚れた方がずっと楽しいし楽だろうに。
なんで選りにも選ってこんな三十路近くのオバサンに熱を上げているんだろうかこいつは。
こうして断り続けていればいつか諦めてくれるだろうと思っていたのだが、こいつはどこまでも真面目であるらしい。
同年代の他の女子には見向きもせずに、一年の頃からずっと俺だけを見ている。
こちらが憐れむ程に。
もうすぐこいつは卒業してここを巣立って行く。
ならばこの広い世界を自由に飛び回れるように、今ここで引導を渡してやるべきだろう。
俺の手でお前の初恋を終わらせてやるよ。
「土方お前さぁ、馬鹿じゃねぇの?」
「先生?」
俯いていた顔を上げてわざと馬鹿にしたような笑みを貼り付ける。
「俺はさ、大人の男が好きなんだよ。
オメーみてぇにケツの青いガキなんざまともに相手する訳ねぇだろ。
金もねぇ、甲斐性もねぇガキと付き合って何が楽しいよ?」
嘲るような笑みを向けて見下したような目を向ける。
「ガキのお遊びじゃねぇんだよ恋愛は。
俺はオメーと恋愛ごっこしてやれる程暇じゃねぇんだ。
この歳でおままごとなんてしてらんねぇんだよ。
これから先一生俺を背負うだけの覚悟がオメーにあんのかよ?
一時の気の迷いとか勘違いに時間裂いてやる程俺は優しくねぇよ。
俺と付き合いてぇってんなら、俺を支えられるぐらいに頼り甲斐のある男になってから言うんだな」
解ったらとっととお家に帰んな坊や。
シッシッと犬猫を追い払うように手を払って背を向ける。
急に静かになった屋上に、校庭から部活に励む若人達の元気な声が聞こえて来た。
背中に刺さる視線を無視して、校庭を走る陸上部員の姿をぼんやり眺めていると、暫くしてそれは何も言わずに俺から離れて行った。
バタンと遠くでドアが閉まる音がする。
それに溜め息を吐いて頭を掻いた。
「上手く演じられたかね…」
嫌な大人を。
お前が嫌いになるくらいの嫌な大人を演じてやれたろうか?
きっともう二度と口も利いてはくれないかも知れない。
でもそれで良いんだ。
叶わない恋に苦しむくらいならば、いっそ憎んでくれたら良い。
あんな奴に惚れたのが間違いだったのだと、そう思ってくれたら良い。
「満更でもなかったんだよ俺も」
恋愛対象としてではないけれど、あの汚れを知らない真剣な眼差しに射抜かれるのは嫌いじゃなかった。
もしあいつが大人であったなら。
もし俺とあいつが教師と生徒と言う間柄ではなかったならば、きっと俺は受け入れた事だろう。
あれほどまでに真っ直ぐな思いを向けて来た異性に、俺は此の方出逢った事がなかった。
「勿体ない事しちまったかな」
今すぐは無理でも数年経てばきっとあいつは立派な男になったろう。
将来のビジョンがしっかりと見えているあいつならばちゃんとした大人になるだろう。
だけどそんな彼の隣に俺が居るのは相応しくない。
もしこの先大人になった彼に会う事があったならば、今のお前なら及第点だと言って笑ってやろう。
その頃にはきっとあいつに似合いの彼女も居るのだろうから、何を馬鹿な事をと言って笑ってくれる筈だ。
「あー、教師になんてなるんじゃなかった」
適当に教員になる道を選んだ高校時代の自分を恨めしく思いながら、前途洋洋な若者の成長と幸福を心から願った。
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