短文置き場

□愛を込めて
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「土方君めっけ」
その声と共に目の前の視界が遮られる。
それに顔を顰めて傍らを見れば、そこには満面の笑みの女が居た。
「何の用だ万事屋。公務執行妨害でしょっぴかれてぇのかテメェ」
そう言って睨み付ければ、それは肩を竦める。
「何だよ。なんでお前に物やるだけで捕まらなきゃなんねぇの?
せっかく銀さんの貴重な糖分を分けてあげようってのによ」
そう言って先程まで俺の視界を遮っていた物を軽く左右に振って見せた。
それはピンク色の包装紙でラッピングされた薄っぺらな箱だった。
それを見て軽く胸焼けを起こした俺は溜め息を吐く。
「チョコレートかよ」
「そっ。いつもお世話になってる土方君にプレゼント」
そう言って押し付けられたそれを渋々手に取る。
「俺ぁ甘いもんは好きじゃねぇんだよ」
しかも帰れば屯所の自室にはチョコレートが山を成して俺を待ち構えていると言うのに、何故ここでまたチョコなんだ。
「嫌がらせか?」
俺は普段からさしてこの女と仲が良いと言う訳ではない。
どちらかと言えば馬が合わない相手だ。
だというのに、そんな万事屋が唐突にこんな行動に出れば邪推したとて仕方がないだろう。
しかもこいつは只でさえ甘味に関しては食い意地が張っている。
この女に無理矢理奢らされたのも一度や二度ではない。
そんな相手からの贈り物とやらを胡乱げに見る俺に、万事屋は不服そうな顔をする。
「お前は人からの厚意を素直に受け取れねぇのかよ」
せっかくお前の為に作ったってのに。
ボソリとそんな声が聞こえて来てチョコレートの箱から万事屋に視線をずらすと、そこにはしまったと言う顔で口を押さえた女が居た。
「あ、いやあの、別にお前の為に作った訳じゃなくてだなっ!そのあれだよ、ついでだ、ついで!
だって神楽が手作りチョコくれってうるせえからっ!
だから、それ別に本命って訳じゃねぇんだからな!!
義理だ義理っ!!
だからありがたく食いやがれ馬鹿っ!!」
一方的にそう言うと、万事屋はまるで逃げるようにどこかへ走り去って行った。
その場に残された俺は手にした箱に視線を落とす。
「本命だってのかよ」
てっきり義理チョコだと思っていた。
だがどうやらそうではなかったらしい。
あんな真っ赤な顔で違うと言われて誰が信じるだろうか。
「案外可愛いとこあんじゃねぇか」
チョコの入った箱を眺めながら自然と笑みが零れる。
「返礼は二倍返しが相場なんだったな」
さて、こんな可愛い事をしてくれた礼に何をくれてやろうか。
一月後のホワイトデーに何を渡そうか思案しながら、男は上機嫌にその場を後にした。



終わり

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