リクエスト品

□あの月が満ちるまで
1ページ/10ページ

「毎度どーもー。皆のアイドル銀さんでーす」
棒読みの台詞を吐きながらあの女が食堂に入って来た。
それに野郎共が歓声を上げる。
ピンクのフリフリエプロンなんぞを付けたあの女を見ていると、なんの冗談だろうと思う。
数時間前に近藤さんからあいつがここに来る事を話しには聞いていた。
「いやあ、食堂のオバチャン達が風邪拗らせて人手不足だからさぁ。万事屋に手伝いに来てもらう事にしたんだよ。
一週間泊まり込みで頑張ってもらうつもりだ。
ってな訳でよろしくな、トシ」
そう言ってぽんと肩に手を置かれる。
「ああ解った」
と咄嗟に返事をして我に帰る。
「ちょっ、待てよ近藤さん。今の言い方じゃあ俺があいつの面倒見なきゃならねぇみてぇじゃねぇかっ!
今のよろしくって何?
マジで笑えねぇよ」
そう言って近藤さんに談判するも、
「だってトシ万事屋と仲良いじゃん」
と唇を尖らせてそう言われて、半ば無理矢理世話役を押し付けられた。
有り得ねぇ。
なんで俺があんな女の面倒なんざ見なきゃならねぇんだ。
考えただけでも嫌になる。
仲が良いなんてもんじゃねぇ。
あいつと俺は犬猿の仲だ。
どうやっても馬が会わないあれとどうよろしくやれってんだ。
何故だか知らんがあいつはやけに隊士達に人気がある。
秘密裏にあの女のファンクラブが出来ていたりもした。
勿論目障りだから直ちに叩き潰したが。
あの女がいると隊の士気は上がるんだがそれがどうにも気に食わない。
あんなののどこが良いんだ。
没収した写真の中にはあいつが女装、もとい化粧して着飾った姿のものが数枚あった。
確かに何も知らない野郎から見れば美人なのかも知れねぇが、あれは完璧に中身はオヤジだ。
そんな女に魅力も何も感じねぇ。
だからその写真はそのまま廃棄した。
あんなもん手元に置いときゃあ総悟に付け入られかねねぇからな。
「あのさ。悪りぃけど退いてくんない?
通れねぇんだけど」
途方にくれた万事屋の声がして我に返った。
いつの間にかあいつの回りには隊士が集まって人だかりが出来ている。
その人垣の中で困った顔をしている女に近付いた。
「おいテメェら何してやがる。飯食ったんならさっさと持ち場に戻りやがれ」
青筋立ててそう言えば人垣が霧散した。
「ありがと土方君」
ヘラリと笑って礼を言う女の腕を掴んで歩く。
厨房の中まで連れてきてから手を離した。
「テメェはこれから一週間ここの手伝いだ。
食堂に来る時は裏口から入れ。
テメェが食堂内チョロチョロすると目障りだ。
解らん事があればここの奴に聞け。
それからむやみに屯所内を歩き回るなよ。
テメェがいるとあいつら仕事しやがらねぇからな」
そう捲し立てると憮然とした表情で、
「解ったよ。ちゃんと仕事すりゃあ良いんだろ」
と言って頭を掻いた。
本当に理解しているのか甚だ疑問だが、この女ばかりに時間は裂けない。
「何かあったら直ぐ俺に言え」
とだけ言って踵を返す。
ついでに後で俺の部屋に食事を持って来るように言い付けて食堂を後にした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ