土♀銀小説

□疑惑
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その時は突然、なんの予兆もなく訪れた。
平日の昼下がり、ぶらぶらと街中を散策していた時の事だ。
少し離れた所に見慣れた恋人の後ろ姿が見えて、あれっ?と首を傾げる。
確か今日は仕事だと言っていた筈なのに、恋人は隊服ではなく着流しを身に纏っていた。
そうしてその傍らには見知らぬ女がいる。
知り合いだろうかと思って声をかけるのを躊躇っていると、不意に女が近づいて恋人に腕を絡めた。
恋人はそれを拒絶する様子もなく女の肩に腕を回す。
ぐらりと目眩がした。
その光景はどう見ても仲の良いカップルにしか見えない。
嘘だ。そんな筈ない。信じられない。
土方が浮気だなんて、そんな事……。
今すぐ二人を追いかけて事情を問いただしたい。
そんな衝動に追い立てられるように駆け出した。
けれどもまるでそんな自分を嘲笑うかのように、目の前の信号が赤に変わる。
まさか無理矢理道路を横断するわけにも行かず、その場にたたらを踏んだ。
人混みに紛れていく二人の後ろ姿を見送りながら、一気に心が冷えて行くのを感じていた。
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