リクエスト品

□余所見してんなよ
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いつもの店に行けばそこに土方は居た。
カウンターに座る土方の表情は厳しい。
俺が店の戸を開けば前を向いたまま土方が目を眇めた。
こっちを見ずとも俺が来たのが解ったんだろう。
黙って土方の隣に座ればそれは口を開いた。
「今日は一人で呑むって言った筈だが?」
「まぁまぁそう言うなって。
一人酒は虚しいだろ?
だから俺も付き合うよ」
そう言って空になった土方の猪口に酒を注ぐ。
それを煽った土方は無言で摘まみを口に入れた。
咀嚼する土方の横顔を、カウンターに肘を付いて眺める。
「お前さ、やっぱ良い男だよ」
「いきなり何だ」
「んー?これなら女が寄って来んのも道理だなぁって。
今日も囲まれてたもんな、別嬪達に」
そう言えば漸く土方は俺を見た。
「テメェは何が言いてぇんだ。
自分がモテねぇ僻みか?
それとも妬いてやがんのか?
どっちにしろ碌なもんじゃねぇな」
そう言って土方は苦虫を噛み潰したようなツラをして煙草を口に含む。
吐き出される紫煙を見つめながら口を開く。
「だったらどうする?」
「ああ?」
「俺が嫉妬してたら、お前どうする?」
「…………」
土方は何かを考えるような表情を浮かべて俺から目を逸らす。
呆れただろうか?
それでも妬いたのは嘘じゃねぇんだ。
何も無かった事にして流す事も出来るけど、それだとその場しのぎにしかならないだろう。
また同じような事があった時に上手く対処出来なきゃ意味がねぇんだ。
だから俺が焼き餅焼きな事もこいつには理解しといて貰わないと困る。
「今までずっと我慢してたんだけどよ、お前が女に絡まれてんの見てていい気はしねぇんだよ。
最近、つーか今日気付いたんだけどな、俺って意外と嫉妬ぶけぇらしいよ。
お前が他の女と居るの見ただけでスゲェイライラすっしムカつくもんな、本音は」
そう言えば土方は苦笑する。
「そうかよ。
その割りには今までよく隠し遂せたもんだな。
俺は気付きもしなかったが。
とんだ道化だ。
俺だけじゃなくテメェ自身までそれで騙してたってのかよ」
だがまあ、テメェに嫉妬されんのも悪かねぇな。
意外な台詞に驚いて土方を見やればそれは笑う。
「今日チャイナが俺に話し掛けて来たろ。
あん時のお前の焦り様は笑えたな。
だがあれもテメェが嫉妬してんのを俺に気付かれたく無かったからなんだろ?」
「だったら悪いのかよ」
唇を尖らせて問えば、いいやと土方は言う。
「テメーはどれだけ経っても俺にその腹ん中を見せようとしなかったな。
どんだけ俺が女に絡まれようが言い寄られようがお構い無しだ。
本当に俺に惚れてんのか疑問だったんだが、どうやら心配する必要も無かったらしいな」
そう言って土方は煙草を揉み消すと俺の頭の上に手を置いた。
「妬いてくれてありがとうよ。
これで漸く俺も安眠出来そうだ」
「嘘つけ。
今までだってちゃんと寝てたろ。
俺のせいで不眠症でしたみてーな事言ってんじゃねぇよ」
ムッとしながらそう言えば土方は笑う。
「何にしろ一安心だ。
俺もちゃんとテメーに愛されてんだな」
そう言った土方は本当に嬉しそうで、だから何も言えなくなる。
「あ、愛してるに決まってんだろ馬鹿野郎」
赤くなりながらボソリと呟けば、土方はフッと笑んで見せる。
「もう一度酌してくれるか?
テメーの酒は一味違うんでな」
「良いのか?
俺の酒は高く付くぜ」
「ああ良いぜ。
好きなだけ身体で払ってやるよ」
「バーカ。
そんなん要らねぇっての」
ふざけた事を抜かしやがる土方の肩を小突く。
嗚呼、でもキスならしてぇかも。
「土方」
「なん…っ!?」
名前を呼んで此方を見た土方の唇に口付ける。
周りの目を気にして慌てて離れようとするその胸ぐらを掴んで、
「余所見してんじゃねぇよ」
とニヤリと笑ってやる。
焼き餅を焼かせてくれたこいつにせめてもの仕返しだ。
ざまぁみろ。
羞恥で頬を赤くした土方は、顔を離した俺を悔しそうに睨んで、
「後で覚えてやがれ」
と捨て台詞を吐いた。



終わり
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